見出し画像

【音楽語り】今からでも遅くない「梅田ナイトフィーバー」【HIPHOP】

みんな知ってるわ。

 
 今更梅田サイファーの曲について語ろうとしているヒップホップ初心者の記事に、みなさんはまずこう思っただろう。知ってる知ってる。梅田サイファーなんて皆知ってる。みんな好き。今更言うこと無い。ハイ解散。それより『RAPNAVIO』リリースワンマンツアーのチケット取るのに忙しいんで。

 まぁまぁお待ちなさいな(お茶をすする)。

 こちとらHipHopにハマって一年経たないヒヨッ子である。そもそも、サイファーという言葉を梅田サイファーで初めて知ったのだ。
 それまではおそらくサイファーとサーファーの区別がついていなかったため「ラッパーの人たちってサーフィン好きなのかな。たしかにチャラそうな人多いイメージだもんなァ」とか謎の印象を持っていた。これはヒップホップ初心者がどうとか言うより、単に私がアホなだけである。あと別にサーフィンが好きであるのにチャラくある必要もイケてる必要もない。偏見ってよくないよね(真顔)。

 ところが。
 Wikipediaを覗けば、梅田サイファーの集まりは当初、そんな「イケてるラッパー」とは対極な存在の代名詞として知られていたのだそうな。
 不良じゃない。ストリート出身でもない。クラブ文化にも縁がない「HipHopじゃない」奴ら。
 そんなことある? キングオブコントのOPまで手掛けて、あんだけ視聴者をぶち上げた梅田サイファーが? その後その曲を書き直して「KING」なんていうオラオラ自己紹介ラップにしちゃう梅田サイファーが?(クソカッコよかったんですが?)

 いやいやいや、そんなの想像できないって。あの梅田サイファーがイケてないなんて、まさかまさか————。

あっダセェ!!! 

 記事トップに貼った『THE FIRST TAKE』の「梅田ナイトフィーバー」で、ポップでスマートな梅田サイファーの姿に惹かれて本家のチャンネルを開いた私は不意打ちを食らって撃沈した。一週目は何が起きたのか分からず呆然として終わり、二週目にはじわじわき始めて、三周目には爆笑していたせいで歌詞がまったく頭に入らなかった。
 すごい。ちゃんとダサい。いや、めちゃくちゃダサい。けなしているのではない。むしろこのダサさがいい。ダサきもちいい(そんな言葉ある?)。

 超カッコいい曲なのに、笑わせにきているとしか思えないMV。野球のルールを微塵も知らない私には余計に訳が分からない。あと友情出演が無駄に豪華なのはホント何でなんですか? 私ですら名前を知っているビッグネームを全力で使い捨ていくそのスタイル、むしろこれがHipHop???

 アンダーグラウンドの対極を堂々と進むこのスタイル、開拓者は梅田サイファーだったのだ。いやぁすごい。ダサい。ダサさが分かって、ようやく梅田サイファーのすごさが実感できた気がする。それにしてもダサい(しつこい)。
 そして優しい。この記事でメインで語るのは、この「梅田ナイトフィーバー」なのだが、聴けば聴くほど優しい曲だと思う。それも、柔らかく頭を撫でてくるような甘い優しさではなくて、背後から肩をバンバン! と叩いてくるようなガサツで温かい優しさだ。

 ただ、曲の印象はオリジナル版と『THE FIRST TAKE』版でやはり変わる。
 オリジナル版が、もっとむき出しの個性とオモシロを押し出していたのに対して、『THE FIRST TAKE』は聴きやすいポップさとライブ感に寄せているような印象だ。イメージだけで言えば前者は、テンションの上がった高校生たちがふざけ倒して盛り上がっている文化祭の前夜祭、後者はそんな高校生たちが大人になって懐かしの教室に集まった同窓会。
 どちらのシチュエーションでもいい。賑やかな周囲に対して、自分も楽しいはずなのに、なんとなく気が乗らず、ひとりぽつんと皆から離れている。そんな自分の背後に忍び寄り、肩をバンバン! と力強く叩いてくる手があるのだ。

 びっくりして振り返れば、気心の知れた友人の顔。
 よう、元気?

梅田サイファー is right here

それは目覚めりゃ 消える夢かも
もしくはとんでもないトコ たどり着けるかも
それは天国かも もしくは地獄かも
でもきっと大丈夫ほら Let’s go, come on New World

(VERSE:テークエム)より

 テークエムさんによる導入。ここですでにこの曲の優しさが現れている。
 「かも」の可能性に満ちた不安は、ちょうど高校生が味わうような、未来がある故の青春の悩みと重なる。そんな若い気持ち、若い悩みに、「まあ肩の力抜けよ」と言ってくれているような楽しいビートと明るいリリック。

One more time for da…
お前のmotherf#ckin mind

(VERSE:KennyDoes)より

 次はKennyDoesさんのターン。「One more time for da…」の言い方がカッコよくて好きだ。
 ここの二行目、#は入っているものの、ラップを聴いていればそこらじゅうで使われているあの単語なことは分かるわけだが、オリジナル版だとこれに「マザ・マザ・マザ・ファッ#ン・マインド!」と元気よく掛け声が入るのに対し、THE FIRST TAKEの方では、同じ掛け声かもしれないが、逆に「まあ、まあ、まあ、まあ……」と周りがKenyyDoesさんをなだめているように聴こえるのだ。

 ここがちょっと面白くて、THE FIRST TAKEバージョンを「同窓会」と表現した理由でもある。そう、「梅田ナイトフィーバー」は掛け声も特徴的だ。大人数でやっている利点を活かし、誰かの単独のバースでも随所に他メンバーによる掛け声が入る。
 ファーストテイクの方がそれはより顕著だ。そのためか、いっそう皆で遊びながら楽しくやっているライブ感が出て(オリジナル版は別の意味で遊びまくっているが)雰囲気が柔らかく、「HipHop初めての人もいるんだから抑えめにいってあげましょ」というベテランの余裕を感じる気がする。

 さて、それはそれとして、ここで思いっきりmindを罵倒された「お前」さんだが、この曲の面白いところはここから。

俺と俺のツレとこんな音が
お前をエスコート エスケープ
レッツゴー ヘッドフォンをして

(VERSE:KennyDoes)より

 鬱屈とした最悪なmindを抱えた「お前」を、見捨てずにエスコートしてくれると言うのだ。エスケープに必要な道具はヘッドフォン。
 音が「お前」をNew Worldに連れて行ってくれる。
 「梅田ナイトフィーバー」は、どんな「お前」も置いて行かない。

電波に乗った 心ない言葉
逃げだしたい ここ以外どこか
今の俺ら 繋がりすぎてる
か弱いライン 綱渡してる

(VERSE:KZ)より

 明るい曲調に、あえてか細い心の弱音を乗せて歌い上げるKZさん。一人きりで通学路を歩く制服の背中。毎日が退屈でやりきれない。社会と関わるのが怖い。そんな少年少女が手を伸ばした先にはヘッドフォン。そんな想像がいつも私の頭の中に流れる。

音楽 ノイズから守ってくれ
高鳴る胸 瞬く刹那
音楽 遠く運んでくれ
車が船かバスかセスナ

(VERSE:KZ)より

 ここのKZさんの声、アゲアゲではない静かな感じが、小さな祈りのようで素敵だ。
 この間にある、6、5、4、3、2、1と数字を刻んでいくリリックもスマートで最高なのだが(聴いた人はどこか分かるはず)、好きなところを全部引用していたら結局全文引っ張ってくることになってしまうので、泣く泣く省略させてもらう。

 とにかく「梅田ナイトフィーバー」は一緒に歌いたくなる歌詞(リリック)なのだ。自分がそのサイファーの輪の中に入れさせてもらっているような感覚。「この曲は自分宛てだ」と、何の根拠もなく直感的に信じられる不思議。

ティンバーにニューエラ ルーズな服装
通学から週末までヘッドフォンで武装
yo check it ヒデキ感激の衝撃
重低音の鎧纏い今の俺は無敵

(VERSE:ふぁんく)より

 ヘッドフォンに手を伸ばした少年少女は、音の向こうに新たな友を得た。
 mother f#ckin mindで毎日がどうしようもなかった彼らは、音を身にまとって外界をいったん遮断する。そして「重低音の鎧」を着こんで立ち向かう。
 何かの曲にどっぷりハマる時って、多かれ少なかれこんな感じだと思う。最高な音楽に出会い、それを何度もリピートし、イヤフォンでそれを流しながら外を歩く時、「自分は無敵だ」という万能感を一瞬感じる。BGMだけで人は最強になれるのだ。
 そのうえ、自分のラップを曲に乗せられる人は、どれほど最強なのだろうか。 ふぁんくさんの不敵な韻の踏み方がその答えを教えてくれる。

いつものメンツ 声をきかせな
一見さんならテキトーに揺れな
今さら手のひら返したやつら
まだおそないから一緒にhands up

(VERSE:KBD)より

 梅田ナイトフィーバーは、誰も置いていかない。
 古参、新参者、元アンチ、まったくカヤの外だった人。
 それをみんな突き放さないし拒まない。ああ、だから「一見さん」だった私はこの曲に惹かれたのかもしれない。誰でも飛び入りで参加していいこの空気感は、まさにサイファー。
 私たちは最初から「梅田サイファー」の中に居たのだ。KBDさんの怒涛の呼びかけに応えて両手を上げているうちに、終わりは近付いてくる。

踊れもしないのにステップを踏んで
気がつけばまた逃してる終電
ドラマみたいに出会いは偶然
再放送なし現場生中継
生まれも育ちも異なるのに
引き寄せられた音の鳴る方に
集まる同士 ついてきなこっち
連れてくぜもっともっと向こうに

(VERSE:peko)より

 pekoさんが締めくくる最後のラップパートは、直前までの盛り上がりに対して少し落ち着く。回想のような語りから現在、そして未来の話へ、グラデーションのように移り変わるリリックが見事。
 「再放送なし現場生中継」なのは即興ラップの醍醐味。だけど、よく考えたら人生そのものも現場生中継の「ドラマ」じゃないか? 現実にはドラマのようなことは起こらない、とはよく言われるけど、夢中になれる何かに偶然出会うって、実は超ドラマチックなことじゃないか?
 たとえば、たまたまシャッフルで流していたSpotifyで初めてHipHopに触れたこととか。
 たとえば、YouTubeのバトル動画で日本語ラップの奥深さを知ったこととか。

 たとえば、この梅田ナイトフィーバーという曲に出会えたこととか。


 …………なーんて、めちゃくちゃにカッコつけてみたが、繰り返す通り自分はハマりたてホヤホヤのにわかHipHopファンである。
 「梅田ナイトフィーバー」は、そんな初心者マークの聴き手にも優しい、イカした曲だ。ケンカもなければ、これからのし上がってビッグマネーと名声を手にしてやるぜ的なアッパーな感じでもない。代わりに、隣に立って、へたくそなステップで一緒に踊ってくれるのだ。
 ミラーボールに照らされて光るダサさ。それは、親しみやすさと言い換えても間違いではない。

 KBDさんが「歩道橋の頃のように」とリリックの中で言った、梅田サイファーの始まりの地・大阪梅田駅も、そのように暖かな場所だったのだろう……。


 まあ直後に「トラボルタカスタム」なんちゅーいかつい曲ブチ込んで盛大に初心者を置き去りにしたけどな。

 『THE FIRST TAKE』、前半と後半で雰囲気変わりすぎなんよ。いきなり殺気すごいじゃん。梅田ナイトフィーバーで優しく受け入れてもらえたと思ったらトラボルタカスタムで「叫ぶだけならギャグだろ」「コアのふりしたマスだろ」とか初心者も古参もボコボコにしてくるじゃん。えぇ……前半で「テキトーに揺れな」って言ってくれた人たちとは思えないよぉ……(まんまとこっちにもハマったけど……)

 あと上でリリックに触れられなかったKOPERUさんのファンの方、すみません! 記事が長くなりすぎるから断腸の思いで割愛しました! でも一番声が好きなのKOPERUさんなんだ! 特にトラボルタカスタムの「Hand ina di air 言われた梅田の底辺」のとこマジで耳から離れなくてカッコいい! あとファーストテイクで梅田ナイトフィーバーに入る直前の「よろしくやん」ってDJ.SPI-Kさんたちに小さく声かけてるとこ好き!!!(目の付け所がオタクのそれ)

 同じく触れられてないR指定さんは、いずれCreepyNutsの方で何か書くかなと思ったんで今回は省略……でもやっぱRさん、改めて思うけどシンプルに歌が上手いんだな……。

 感じたことをそのまま書いたごちゃごちゃな記事でしたが、最後はせっかくなのでKOPERUさんのフレーズで終わります。

次は君の街にU.C. is comin’!

(BRIDG2:KOPERU)より

 

いいなと思ったら応援しよう!