【読書記録】ミステリと言う勿れ 1-6/田村由美
とても売れているのは知っていた。
なんせ、あの「7SEEDS」を描いた人の作品だ。
面白くない、わけがない。
書店で並んでいて、とても推されているのも知っていた。
でも、読むのは今になってしまった。
早く読めばよかった。
もう少し早く彼に出会っていれば、彼の言葉に出会っていればよかった。
そう思える作品だ。
主人公の久能整(くのうととのう)はよくしゃべる。
それはただのうんちくの時もあれば、そのうんちくが
話し相手の心を救ったりもする。
その話は今から使えるものもあれば、ただの豆知識の時もある。
でもその「ただの豆知識」が良い味を出していたりする。
そして彼はよく事件に巻き込まれる。
殺人犯にされる事もあり、バスジャックに巻き込まれたかと思いきや
次は遺産相続問題に巻き込まれるなど、尽きることがない。
そんな事件の1つ1つを、目の前にいる人と真剣に向き合うことで
でもその「ただの豆知識」が良い味を出していたりする。彼は解決してきた。
「人と向き合う」って案外難しい。
言葉の1つ1つを正確に受け止めなくちゃだし、
相手の細かな動きから感じることも必要な時もある。
ただ「話を聞く」だけじゃ、向き合っていることにならない。
何かを相談されることや、報告されることがよくあるのだが、
私は彼・彼女たちとちゃんと向き合っていただろうか、と振り返った。
そもそも、たかだか数十年生きたぐらいの私が
誰かの人生に影響を与えるなんておこがましい事、望んでいるわけではないが
せめて、私に話してくれる、という選択をしてくれた相手にとって
ちゃんと向き合うことが一番の誠意だとしたら、
私はその誠意をちゃんと見せてきただろうか、と思った。
自分自身の傲慢さを押し付けただけで終わっていないだろうか、と。
主人公の彼は、膨大な知識量に加えて、
彼自身が常々考えていることを加えて話している。
それはつまり、知識を受け入れるだけではなく、ちゃんと自分で考えて
かみ砕いて、理解して、自分の言葉に落とし込んだ上で
その「知識」をものにしている、ということだ。
この情報化社会の中、「自分で考える」なんて、
一体どれほどの人がやっているだろうか。
垂れ流しされているタイムラインの記事をただ眺めて、覚えだけで、
自分の知識が増えたかのように、さも賢くなったかのように
振舞っていないだろうか。
彼が伝える言葉は、1つ1つ相手にちゃんと伝わっている。
相手が素直な人だから、とかそういう話ではなくて、
彼が発する言葉には、彼の考えや思いが重ねられている様に感じるからだ。
その知識+彼自身の考えに、彼の誠実さがプラスされたら
思わず相手は耳を傾けたくなる。
聞くのではなく、聞きたくなる。
もし目の前に彼が表れて、何か話してくれるとしたら、
一体何を話してくれるだろうか、と少し想像した。
一方で私は、ただ知識を覚えるのではなく、自分のものにして
ただ言葉を伝えるのではなく、そこに少しでも相手への思いをプラスして
そうやって、会話ができるように、言葉を伝えられるようになりたいと思った。
彼のお話は未完結だ。
次はどんな話を聞かせてくれるのか、楽しみで仕方ない。
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