第39回 カウンセラーのTシャツと言葉のサラダ うつを乗り越える物語り
カウンセラーとスタッフの日常会話の記録です。
Mi代表:深層心理学が専門のカウンセラー。Mitoce代表。
すたっふ:カウンセラー見習いのスタッフ。少々オタクらしい。
すた:今度のセミナーの資料ですが、Mi代表が見せてくださった気分障害の標準的な治療法の資料の内容をまとめました。これ、分かりやすいですね。
Mi代:日本うつ病学会の診療ガイドラインですね、双極性障害の。いわゆる鬱だけでなく、躁についても書いてあるガイドラインです。このガイドラインを私も読んで良いと思ったのは、薬物治療だけでなく、心理教育や生活習慣についても書いてあることですね。治療から考えると当然ですがどうしても医療的なアプローチというと、お薬だけというイメージを持つ人もいるので。
すた:これを読んでいて思ったのですが、心理的なアプローチはどうなのでしょうか? たしか心理教育は心理じゃなくて。
Mi代:Psychoeducationの訳で心理教育といっているだけで、病気との付き合い方について学ぶことです。病気や薬の知識、対処法などを学びます。
すた:最近は認知行動療法が流行っています。なのでMi代表のような深層心理学のアプローチってあまり聞かないですよね。実際にはどうなのかと思って。
Mi代:たしかに聞く機会は少ないと思います。私は精神科病院で働いていたので、基本的にはガイドラインに書いてあるようなアプローチは踏襲します。服薬と休息、それと環境調整やこころの状態に関する知識を身に着けてもらう。そういった基礎の上にカウンセリングがあると思います。
うつに関する深層心理学のアプローチは特別なものではなくて。方法論としては寝ているときの夢を書いてきて報告してもらったり、私はしていませんが箱庭を作ったりしてもらいます。そうして内的なイメージ体験をしてもらう。基本的な深層心学的アプローチです。
すた:イメージ体験?
Mi代:こころの中から出てくる、ストーリー性を持ったイメージを深く体験する。そうすることで、こころが変容していくという方法論です。
すた:なんとなくしか、わからないのですが。
Mi代:小説や映画で印象的な物語りを体験したあとって、「人生変わった!」と感じたことはありませんか? こころに響くような物語りを体験したあと、人間は考え方や感情が揺れ動いて変わることがあります。深層心理学は、そのような体験を自分の内側にあるイメージを使ってするといえます。もちろん、そのような体験をするためにはエネルギーも時間も必要ですが。
すた:うつではどうなるのですか?
Mi代:イメージとしては、自分の内面にある否定的な側面、影と向き合うプロセスだといえます。いわゆる破壊性や死といったテーマをイメージの中で体験します。たとえばうつの方であると、寝ているときに見る夢として戦争や天災など、破壊的なイメージをみることがあります。そして、自分のこころの底にある本質的なことを体験すると、そこからようやく回復が始まります。その本質的なこととは何か、というのは個人によって全く違うので一般化できないのですが。影の正体を知るという体験に近いかと思います。
すた:なんか不思議な話ですね。
Mi代:はい、そうですね。深層心理学はそういう、不思議な部分があると思います。このあたりは物語りなどでは、よく扱われるテーマなので、そちらの方がイメージしやすいかと思います。
すた:たとえばどのようなものですか?
Mi代:以前にも話したゲーム、「A Plague Tale」がわかりやすいかと思います。1作目と2作目が出て、一応は物語りは完結しています。中世暗黒時代を背景にしてペストが大流行している世界を舞台にしています。冒頭部分だけネタばれですが、主人公が父親と狩りに出かけているとき、連れの猟犬が大地に空いた穴に飲み込まれる。そういった始まりです。
物語りには大量の黒いネズミが出てきます。ネズミがペストを象徴しているのですが、ペストの恐ろしさがかなり伝わってくる表現です。
そのPlagueが私はある意味ではうつの心的世界を理解することに繋がるなと思いました。世界を飲み込む否定的な存在が、突如大地から沸き上がってくる。物語りとしてはその否定的存在の正体がわかることによって、世界が救うことが目標になるのですが。そこに至るまで主人公は大変な旅を経験します。もちろんゲームだからでもありますが、死線をくぐり抜けていく旅です。その先に悲劇の根源が明らかになることで、世界が回復へと向かう。そういうプロセスです。
すた:ただ苦しい体験をすればいい、というわけではない。
Mi代:そこが大事なんです。苦しみの向こう側へ向かって進むことが大切。
すた:それって、ほとんどの人はそのようなことしませんよね。
Mi代:はい、しません。そのため先ほども言ったように、うつの心理療法といっても、とりあえずは症状をコントロールすること、ストレスへの対処法を身に着けることが中心になると思います。
しかし、どうしてもそのような深い体験をしないといけない人がいます。それはもう縁としかいえないようなものですが。こころの奥底まで分け入って、そこから帰還する。そのような深い体験をした人は、本当に人格全体が大きく変わります。それを変容といいます。
すた:そういう深い話を聴くときって、どのような気持ちでMi代表は聴いているのですか?
Mi代:そうですね、客観的にはただ静かに聴いているという状態にみえると思います。これもイメージになりますが、相手の話しているストーリーを自分も体験しているかのように、その世界観に出来るだけ入るようにします。そうすると自然と肌感覚というか、その世界観の恐ろしさが身をもって伝わってきます。そうして相手の体験とともに歩むという感覚でしょうか。それと同時に、どっぷりその中に入るのではなくて、冷静に状況を見ている自分もいる。そこは専門家としての立ち位置を保持する。それによってクライエントも迷子にならずに、現実に返ってこられるという感じですかね。
すた:相手の世界観を体験しつつも冷静に状況をみる自分を保つ。
Mi代:そうですね。それが大事です。
すた:ちなみに、世界観といえばZepp Osakaで開催されたにっぽんワチャチャのライブはどうでしたか? 私は前田Matonさんから買ったチケットで行きましたが。Mi代表も行ったっておっしゃっていましたが。感想を聞いていませんよね。
Mi代:いきなりつっこんできますね。大阪出身の地下アイドルが、Zepp Osakaという有名な場所でライブができることは喜ばしいことだと思います。
すた:そういう客観的な意見ではなくて、行って楽しかったとか、メンバーがめっちゃかわいかった!とか、そういう感想なのですが。
Mi代:地下アイドルのライブに出かけたというだけで、なにか恥ずかしさを感じてしまうので、あまり話したくないのですが…。しかし、Matonさんに来ていただいたので、しっかりと感想をいわせていただくと…。
あの世界観は面白かったです。2時間のライブがアッという間でした。途中で鈴木Mobさんがためらいながらおっしゃってたことと重なるのですが。いわゆる歌手としてみると、にっぽんワチャチャは歌もダンスも、まだまだ修行中というところがあります。しかし、お客を楽しませようとか、記憶に残る時間にしたいとか、そのあたりはとても良かったです。会場みんなで、ライブを楽しんでいるなという雰囲気でした。
どうしても芸能人やアーティストとなると、舞台上で物語りが完結していて、別世界の人という感覚が出ます。その世界観に惹きつけられるという利点はありますが。でも、にっぽんワチャチャの場合は、武道館に行くというストーリーに、ファンも参加しているという感覚が出ます。自分たちが応援することで、アイドルグループの夢が叶えられるという。これはとても面白いです。相互に影響し合うというのが、地下アイドルの醍醐味なのかもしれません。もちろん、応援したいと思えるアイドルであることが大切なのですが。
とくににっぽんワチャチャは、それぞれのメンバーのキャラクターがそれぞれ個性的です。画一的ではない。だけれども、そういった個性の違う人たちが集まって、何かを成し遂げようとする。それが面白かったです。
見ていた印象として不思議だったのは、個々のメンバーからものすごいオーラが出ている感じではないのですが、なぜか歌っているときはステージが小さく見えました。Zepp Osakaはキャパが2000人を超えるので、結構大きいのですが、それでも小さくみえる。にっぽんワチャチャはもっと大きな舞台でも活躍できるポテンシャルがあるのじゃないかな、と思いました。
すた:なんかかなり誉めますね。
Mi代:前田Matonさんへのお礼です。あと楽しい時間を作ってくださったメンバーへの感謝です。
すた:これですっかり、わちゃぽ(にっぽんワチャチャのオタク)ですね。
Mi代:いえいえ、前回も言いましたが、それは本当に恐れ多いです。私の近くでも全身全霊サイリウムを振っている方がおられたので。ああいう、神々しさは私にはありません。私はその横で手拍子するのも恥ずかしいぐらいで、突っ立っていただけですから。
すた:たしかにMi代表にはオタクのような本気はないですね。
Mi代:はい、だからこその否定なんです。
すた:でも、オタクへのリスペクトからすると、オタクの世界観を共有できるのでオタク界の住人ですよ!
Mi代:オタク界の旅人だということで。
すた:なんかカッコよく終わろうとしてませんか!