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塩分、脂肪、高血圧:日本人の実験~減塩運動の起源~

塩の高血圧説について調べている。12/22(日)にこの件で触りだけお話させて頂いた。

WHOの推奨塩分摂取量は5g/日だが、これは日本腎臓病学会や高血圧学会(6g)より下回っている。まぁコイツらのことなので全人類腎臓病であることを前提にしているのかもしれないが、この殺人集団を疑わない一般社会では「塩分→高血圧→万病の源」の関係が暗黙の了解となっており、その影響で本来気にする必要のない人まで塩分量を管理するアホみたいな現状になっている(あれ?この構図、感染症にソックリだ…)。

一方、情報の歪曲がお家芸の一部のカルト反ワクチンがこの塩高血圧説、並びに世界的な減塩食推奨に対して文句を言っている。その主張を要約すると、

①減塩運動の大元は、1960年代に南九州から東北まで日本の高血圧の調査をしたGHQの研究者ルイス・ダール(Lewis Dahl)という人物の疫学研究である
②北上するに従って食事の塩分量が増加することに気付き、塩分が高血圧を招くと安易な因果関係を指摘したが、高塩分食は極寒の気候を体温を上げて生き抜く先人の知恵であり、血圧とは無関係である
③しかしこの疫学研究を元に60年代に東北で減塩運動が始まってしまい、更に70年代にマウスの塩分投与実験による高血圧の証明が追い風となったが、この実験の塩分投与量を人間に換算すると尋常ではない量となり、現実的ではない。
④血圧に影響するのは寒さそのものか、最近の精製塩のせいである

⇩参考

このロジックで反減塩の主張をしており、そして察しの通りこの主張はアンチ精製塩=天然塩推進とセットである。私には天然塩のステマにしか思えないが、別に天然塩を否定するつもりはない。単純に美味だし、微量ミネラルによる健康効果もあるだろう。だが、塩はNaClに過ぎないという主張がバカ丸出しなのはその通りだが、高血圧が精製塩のせいなどという単純な話でもないというだけだ。要するに団栗の背比べである。やれパスツールが云々Germ Theoryが云々騒ぐ割には、根本的な発想は病原体が精製塩に代替しただけのGerm Theoryそのものである。

まず、カルト反ワクチン達によるこのカルト染みた主張のそのカルトたる所以は標準医療を否定してさえいればそれ以外の主張を簡単に鵜呑みにする単純な思考回路からそもそものルイス・ダールの疫学研究を明らかに読んでいないか誤読の産物であるということだ。本稿はまさにそのルイス・ダールの報告を翻訳するものである。つまり、定説となった塩の高血圧説と減塩運動の起源となった論文である。

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Dahl, Lewis K. 1960. “Salt, Fat and Hypertension: The Japanese Experience.” Nutrition Reviews 18(4):97–99. doi: 10.1111/j.1753-4887.1960.tb01711.x.
PDFリンク:https://archive.org/details/in.ernet.dli.2015.350666/page/n103/mode/2up
「塩分、脂肪、高血圧:日本人の実験」

食塩摂取と本態性高血圧の発症の関連性に関する研究を追求する中、1958年2月から4月にかけて、広島市近郊の日本の農村の成人集団を調査する機会が得られた。この時、高血圧の臨床像が米国で一般に観察されるものとは大きく異なっていることが判明した。臨床上も検査上も、これらの日本人には、西洋の成人集団によくみられる心臓合併症が驚くほど少なかった

慢性動脈性高血圧症患者のうち、この疾患に関連した影響で死亡する患者の主な死因は、心臓、脳、腎臓の血管におけるアテローム性動脈硬化症の合併症によるものであると一般に受け入れられてきた。これら2つの病気には必然的な関係はないと認識されているが、西洋社会では、アテローム性動脈硬化症、特に冠動脈のアテローム性動脈硬化症が、ほぼ不可避な慢性高血圧症の合併症と考えられている。我々の社会では、既病のアテローム性動脈硬化症の経過を高血圧が加速させることは疑いなく、またその発症が高血圧の存在によって実質的に早まる可能性が高いようである。

例えば冠動脈疾患に関しては、マサチューセッツ州フラミンガムにおける長期にわたる継続的な優れた研究によると、45歳から62歳の男性で高血圧の既往のある人は、高血圧のない同年齢の男性に比べ、4年間で約3倍の臨床的冠動脈疾患を発症した。しかし、これらの罹患者は、アテローム形成性の食事、即ち高血圧が無くともその発症が予想される生活を送っていたようである。

高血圧患者が非アテローム形成性の食事を摂取した場合はどうだろうか?動物実験による証拠の大半は、ラット/イヌ/ウサギ/ヒツジ/ヤギ、そして恐らくはニワトリに誘発した長期に渡る高血圧に通常の食事を与えても、アテローム性動脈硬化症の発症はないことを示している。対照的に、ウサギとニワトリの食餌変更で脂質代謝に変化(イヌの場合は甲状腺機能低下症も)が生じると、アテローム性動脈硬化症が発症し、これは高血圧要因が加わると明らかに強化され、加速する。

実験的慢性高血圧症の動物は通常、アテローム性動脈硬化症を発症しない事実は、人間の高血圧は、特定の条件下でこの合併症から分離される可能性を示唆している。

I. Snapperの報告では、北京協和医学院の中国人患者の間でアテローム性動脈硬化症は稀であり、高血圧があろうと冠状動脈血栓症とは無関係だったが、心不全や脳出血は依然として見られた。彼の簡潔な考察では、高血圧や前述の合併症がどれほど一般的であったのかは明らかではない。

高血圧症が一般的で深刻な病気である一方、少なくとも非専門職で労働に従事する大多数の国民の間では冠動脈疾患は稀である日本では、実験的高血圧症の動物に類似した人間の状況が存在している可能性がある。日本では、高血圧症による死亡は主に脳血管障害によるもので、心臓合併症による死亡が大半を占める西洋社会とは対照的である。例えば、B. J. Clawsonによる米国での有名な大規模な剖検例では、高血圧関連死に分類された人々の中で、80%が主に心臓病で死亡し、脳出血による死亡は僅か14%であった。これに対し、日本では、剖検例における高血圧死の少なくとも半数以上は脳血管障害に起因する。

(※訳注)この辺の記述から分かる通り、ダールの研究は「高血圧に伴う合併症」の研究である。それが西洋(動脈硬化/心臓病)と日本(脳血管障害)で異なることから食事の塩分濃度に着目した。日本の食事が50~60年代に突如高塩分食になったわけではない以上、塩分→高血圧の単純な因果関係ではなく、高血圧の流 行が先であり、つまり実態は「高血圧の人間が高塩分食を摂ると特有の合併症(脳血管疾患)に発展する」である。何故なら後述の通り、1951年に脳血管疾患が結核を抜いて日本人の死因第一位となり、脳血管疾患の下地が高血圧にあるならば、その死亡原因の上昇は同時に高血圧の流行を意味する

実際、これら高血圧の二次性疾患は1951年以降、日本における死因のトップとなっており、1900年以降は死因の上位の一つとなっている。1955年には、この二次性疾患を原因とする35歳から80歳までの年齢層における日本人男性の死亡率は、同年代の米国人男性の2~4倍であった。一方、この年齢層における日本人男性のアテローム硬化性心疾患による死亡率は、対照の米国人男性の1/3から1/6であった。

両人種間におけるこれらの疾患の発生率の相違の一部が診断基準の違いにある可能性は高いが、これだけを以て相違点を説明するのは難しい。例えば、約1万人の日本人を対象とするある一連の剖検調査では、重篤な冠動脈硬化症の発生率は、米国の同年齢層と比較して約1/10であった。

さらに、広島の原爆傷害調査委員会の米国医師団による未発表の観察結果は、高血圧症とは対照的に、冠動脈性心臓病は日本人には比較的稀であるという考えと一致している。1950年から55年の間に調査された5000人の成人の中で、動脈硬化性心臓病と診断されたのは45人、動脈硬化性冠状血栓症に続発する心筋梗塞は3人、原因不明の心筋梗塞はさらに8人であった。この同じシリーズでは、高血圧性心血管疾患の診断が227人、高血圧性血管疾患が293人、本態性血管性高血圧症が430人に下された。

(※訳注)ダールの研究は原子力委員会の支援を受けている。先述の通り、この話は「日本の高塩分食の下地に高血圧が流行し、相乗効果で脳血管疾患が多発した」の順番であり、考えるべきは戦後の日本人に「何か」があったということである。

興味深いことに、日本全国で脳血管障害の発生率は概して高いが、他よりもはるかに高い地域があるようだ。一般的に、本州北部地域で最も発生率が高く、南へ行くほど発生率は低くなる。この分布の格差は、気候条件の違いでは説明できない。なぜなら、最も北に位置する北海道では、上記の本州での数値の半分以下だからである。脳血管障害が最も多い地域は、高血圧が最も多い地域でもある

(※訳注)つまり寒冷ストレスでの血圧上昇も否定される

高血圧の日本人に多いと思われる脳血管合併症の主因は、あまり明らかになっていない。病変が主にアテローム性動脈硬化に起因するものである場合、冠動脈および脳のアテローム性動脈硬化症の発症機序は多少異なる可能性があることを示唆しているかもしれない。

病変がアテローム硬化性のものでない場合、それは何なのか? 現時点では明確な答えは得られていないが、高血圧性脳血管障害に関する最近の議論では、血管の弱体化による動脈瘤形成などの非アテローム硬化性のプロセスを示す証拠が再び強調されている。確かに、身体の他の部分におけるアテローム性動脈硬化症の相対的軽症度は、日本人の脳血管障害の一部がアテローム硬化性以外の原因に起因することを示唆している。また、米国人男性は米国人女性よりもアテローム性心疾患による死亡率がはるかに高い一方で、脳血管障害による死亡率は男女でほぼ同等であるというよく知られた事実の説明にも役立つだろう。

遺伝的要因が、日本人と欧米人の冠動脈疾患の発生率の著しい違いの原因かは疑わしいが、この要因の評価は不完全である。ハワイ在住の日本人男性のアテローム硬化性心疾患による死亡率は、同年齢の日本人男性よりも高いことが報告されている。しかし、ハワイ在住の日本人は、米国本土在住の日本人よりも疾患が少なく、さらに米国本土在住の日本人は、同年齢の白人系米国人よりも疾患が少ない。この研究では、ハワイおよび米国在住の45歳から64歳という感受性年齢層にある日本人の男性のほとんどが日本からの移民であった為、そのような人々はすでに確立された文化的パターン(例:食生活)に影響を受け続けていた可能性が高い。さらに、ハワイ在住の日本人は、米国本土に移住した人々よりも、母国的習慣をより多く保持していることは周知の事実である。

(※訳注)米国本土に移住した日本人の「アテローム性動脈硬化症」の発生率は現地民の白人より少ない以上、遺伝的要因が皆無ではないものの、発症の傾向として文化の影響が大きいという考察。

厳格な西洋環境で生まれ育った日系男性を対象とした研究は、より重要な試験となるだろう。そして、アテローム硬化性心疾患が、その他多くの米国成人男性の間で今まさに猛威を振るっていることが証明されるだろうと予測できる。ロサンゼルスとホノルルの心臓専門医とのやりとりから、現時点ではこれが真実である可能性が高いことが示唆されている。

第二次世界大戦後、特に日本では西洋の影響が数多く見られるようになり、特に大都市の専門職階級の間では食生活にも変化が見られるようになった。しかし、大多数の日本人は依然として伝統的な日本食を摂取しており、アテローム性動脈硬化症や高血圧症の病因に関与する可能性がある栄養素への関心が高まっていることから、この食生活について簡単に説明しておく必要がある。米国の観点から、日本人の食生活は主に菜食で、低脂肪(大部分が不飽和脂肪)、平均的なタンパク質、高炭水化物、高塩分であると簡単に説明されている。1日あたりの脂肪摂取量は約20~30gで、そのほとんどが野菜と魚から摂取されており、カロリー摂取量の約10%を占めている。タンパク質の摂取量は1日あたり約70gで、そのうち動物性食品から摂取されるのは4分の1のみで、主に魚介類から摂取されている。カロリーは主に穀物から摂取されており、その主な供給源は米である。

(※訳注)現代の栄養界隈では、小麦食を中心に食の西洋化が批判対象となっているが、当時の日本人は都会人を除き多くが伝統食を食べていたという記述。ここから、高血圧と脳血管障害の増加は食の西洋化では説明できない。

塩分の摂取量は一般的に高く、北から南へ行くほど減少する傾向にある。2つの別個の研究では、本州北部の農民は1日あたり約27gの塩分を摂取していることが判明している。一方、中部および南部の農民の1日あたりの平均摂取量は約17gである(アメリカ人男性の1日の摂取量は約10グラムである)。塩分摂取量が最も多い地域は、高血圧や脳血管障害の発生率が最も高い地域と一致していることは興味深い

高脂肪摂取と高塩分摂取がそれぞれアテローム性動脈硬化症と高血圧症の重要な発症要因であるとすれば、日本人はアテローム性動脈硬化症よりも高血圧症に主に悩まされるであろうという予測が立てられる。これは事実のようだ。

(※訳注)冒頭で紹介した反ワクチンの文句はこの最後の部分だけを切り取ったものと推測される。実際、ダール自身が、それまで高血圧に伴う脳血管障害の話をしておきながら、原文に「If high fat and high salt intakes are important etiologic factors in the development of atherosclerosis and hypertension, respectively,」と明確にHypertension(高血圧症)と記していることから、塩分→高血圧の因果関係を錯覚させる。そもそも高血圧後の合併症の差別化要因を特定する目的の研究なのだから、この記述は整合性がとれていない。この記述が意図的かどうかは現時点では分からない。

Lewis K. Dahl, M.D.
Senior Scientist and Head Research Medical Service Brookhaven National Laboratory Upton, New York
(Supported by U.S. Atomic Energy Commission)

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