ファシリテーターたちの精神と時の部屋 〜ファシリテーターズ・ガチキャンプ【平成最後の初春編】〜
こんにちは。ミテモの高橋昌紀です。
去る1/6と1/7の2日間にわたり開催された、極む!ファシリテーターズ・ガチキャンプ【平成最後の初春編】に参加してきました。ミテモも、本企画の主催団体の1つになっていました。
イベントの様子をレポートします。
以下の構成でお伝えしていきます。
(1) どんな企画で、どういったプロフィールの参加者が来られたか
(2) 実際に何を行い、どんな様子だったのか
(3) どんな成果が上がったか
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【読了時間: 12分】
(文字数: 4,700文字)
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(1) どんな企画で、どういったプロフィールの参加者が来られたか
今回のファシリテーターズ・ガチキャンプは、ファシリテーターと呼ばれる人が集まり、技の磨きあいをするのが目的でした。
しかしそもそもファシリテーターって、なんなんだというのが、参加する前の私の問いでした。
ファシリテーターとは、職業名なのでしょうか。特定のスキルを持った人の呼び名なのでしょうか。それとも生き方なのでしょうか。
どういう人達がファシリテーターというアイデンティティを持って参加してくるのかというのが私の興味関心でした。
ちなみに私は自分自身をどう認識しているかというと、「執筆や編集を仕事として取り組みつつ、人の集う場作りにも関心がある」といったところです。場作りのスキルとして、ファシリテーションがあると考えていますし、身につけていきたいと思っています。一方で、人と人が出会い、集い、目的を持って何かプロジェクトに取り組む場において、いかにその場で人がワクワクしていき創造的になれるかということに貢献するのは、参加する全員が意識すべきではないのかなぁとも思っています。そういう意味でスキルや仕事としてのファシリテーターではなくても、人は誰しもファシリテーター的な面を伸ばしていくことも大切ではないか、と考えています。
前段が長くなりました。
実際に今回のイベントの参加者のプロフィールです。およそ20名の参加者のなかで、私が話せたのは全員ではありませんが、大きく分けると「会社員またはフリーランスなどの形で企業や学校での研修のファシリテーションを仕事にする人」「企業で働き人事組織やプロジェクトマネジメントに関わる仕事をしている人」「起業、創業している、またはその準備をしていて、場作りやコミュニティづくりを仕事にする人」といった方々だったなぁと感じています。
開催地は東京、代々木でしたが、東京以外の都道府県からの参加も何人もおり、遠方から来て、宿をとって2日間がっちり参加された方もいました。
(2) 実際に何を行い、どんな様子だったのか
では実際にどんな流れで2日間は進んでいったのかを書いていきますが、その前に企画前提の共有です。
まず本企画は、ワークショップを可視化する「F2LOモデル」をベースとして、参加者たちが自分のファシリテーションを設計していきました。
※ F2LOモデルとは
Fは「ファシリテーター」を表し、Lは参加者である「ラーナー」 を、 O は 「WS での作品や作業又は道具や素材」 を表している。 2Lとは、2人のラーナーのことであり、 ラーナー同士のコミュニケーションを成り立たせるために必要最小限の関係として表している。2Lがコミュ ニケーションを活性化しつつ、 O の表現を積極的に取り組み自分達のものにしながら活動していくプロセスを、 このモデルによって捉えていく。
(ワークショップにおける学びの観察ツールのデザイン [日本デザイン学会 第59回大会発表論文集 ])
その上で、ワークショップの設計には一貫したテーマ設定がありました。
それは、「THE SDGs Action cardgame X(クロス)というSDGs(持続可能な開発目標)をテーマに気づきを得る体験ができるカードゲームを、企業から参加してくる参加者たちに説明し、プレイしてもらい、学びを生み出す場をつくる」というワークショップを企画・実践することになった、というものです。
ワークショップは、いくつかのステップで構成される、という設計になっています。
まずはアイスブレイク、次にファシリテーターの自己紹介、そしてSDGsに関する興味を引くアクティビティ、そこから参加者へのインストラクション(体験導入)に進んでいきます。参加者たちのゲームプレイの後に、追加ワークの指示も行います。そして、学びを場で共有し、リフレクション(見つめ直し)の機会を作ります。最後にまとめと振り返りを行います。
以上が、企画の前提でした。
さて、ふだん研修などのワークショップでは、ファシリテーターは、数時間かけてこのステップを一連のプロセスとして参加者とおこなっていくわけですが、今回のガチキャンプは、ファシリテーターどうしが学び合うという目的なので、学びのために上述のステップごとにそもそもワークを切り分けています。
たとえば、「ファシリテーター自己紹介」を1つのセッションとして切り出し、今回の参加ファシリテーターのうち1人が数分間を使って参加者の前で自己紹介を行います(その後でSDGsカードゲームのワークショップをする、という設定で)。そして自己紹介が終わった後で、参加者たちは、そのファシリテーターの行ったセッションが目的に合っていたか、とか、こういうやり方もあるのではないか、とかをフィードバックしていきます。
喩えるなら、前に立つファシリテーターは、まな板の上の鯉になるということです。あるいは、心境としては、審査員たちを前にオーディションに望む俳優のそれに近いかもしれません。自分のファシリテーションに対して、容赦ないツッコミが入れられる、ということですから。
このように書くと、なんとも恐ろしいワークショップに感じられるかもしれません(笑)。特に、前に立つファシリテーターを、誰もやりたがらないのではないか…?
しかし実際は、何人ものファシリテーターの方が事前に、前に立ってセッションを行う希望を出しており、準備をして、この2日間に臨んでいました。やらされ、でやっている人はだれもいませんでした。
文字ばかりでもなかなかイメージが伝わらないので、当日の様子を写真で振り返ってきます。
↑アイスブレイクの様子
↑参加者の立場になりきって、ワークを行います
↑前に立ってセッションするファシリテーター
↑カードゲームを体験中
↑セッションのあとは、フィードバックをファシリテーターに伝えます
写真を見ていると、前に立つ方も、席に座っている方も、極めて真剣で、そして豊かな表情を浮かべている様子が分かります。
自分のファシリテーションにビシビシとツッコミが入る、またはそのツッコミを入れるのに、どうしてそんなみんな、良い顔を浮かべているのでしょうか。
私自身は、前に立つセッションは行わず、着座しての参加者側だけでの参加でしたが、それでもわかったのは、この場自体が、普段得るのが難しいフィードバックを得て成長につながる場だったということです。
それが分かっているからこそ、参加者たちは皆真剣であり、積極的にセッションに立ち、厳しいものも含めてフィードバックをもらいに行っていました。
(3) どんな成果が上がったか
そもそも、ワークショップなるものはなんのために行うのか。人によって意見は様々かと思いますが、私が考えるその目的は、ただの座学や一方的な知識の教授では起きることがほとんど期待できない「気付き」「学び」をワークを通して得て、参加者がそこから先の行動を自ら変えていく機会をつくること、というものです。
今回の2日間のガチキャンプに臨んだ参加者たちが目指していたことは「ファシリテーターとしての気付きを得て成長し、これから先に自分が企画設計する、またはファシリテーションするワークショップや研修をよりよいものにしていけるようになる」ということだったと感じました。
実際に今回のワークショップの中では、ファシリテーターたちは交代で前に立ち、セッションを行うわけです。が、そのセッション直後に参加者から、ファシリテーションに対するフィードバックを受ける、ということは、現実に仕事としてファシリテーションを行うときには、まずもってありえない体験になります。決められた時間の中で、ファシリテーターはワークショップをつつがなく進行させるのが仕事だし、参加者はそこでワークに集中するのが良しとされるからです。
それはファシリテーターとしては、ファシリテーションの上の課題があっても、参加者からのフィードバックをもらう機会を失っているということでもあります。ファシリテーター自身のファシリテーションスキルをフィードバックを受けて伸ばす機会というのは、実は想像以上に限られているということに、気づきました。そういう意味で、今回の場は極めて貴重なものだったと感じます。
参加者からセッションを終えたファシリテーターに行うフィードバックも、きちんとフォーマットが定められています。これは、非常に意味が大きいと感じました。
理由は2つあって、1つはフォーマットを定めることで、ファシリテーション自体への効果的なフィードバックが生まれること、もう1つは心理的安全性が高い場になるということです。
大まかにいうとそのフォーマットとは「目標とする状態に機能的であった部分」「機能していない部分」を個人が記述して、それをベースに全体で対話していく、というものです。この「機能的かどうか」という観点が大事だと思いました。ワークショップのファシリテーターは、目標状態に近づけることが重要なミッションになってくるものだと思います。その意味で、単純な「好き、嫌い」という感情のコメントではなく、機能的という観点は、適切で有用なフィードバックを生みやすくしていると感じました。
これは、心理的安全性にもつながります。誰だって、前に立って行ったセッションに対してフィードバックを返されることは緊張するし、怖さを感じるものです。これはファシリテーションに限らず、演技や演奏、プレゼンテーションにも共通することでしょう。
しかしそこで返されるフィードバックが「なんのためか」がはっきりし、かつ場に立つ目的に沿うものであるということが事前に認知できており、実際にもそのようなフィードバックなのであれば、自分が攻撃されてしまうというような恐怖は取り除くことができます。
もちろん緊張はなくならないでしょうが、その緊張は真剣さの裏返しでもあり、とても大切なもの。
2日間のガチキャンプで前に立ったファシリテーターの方たちの表情を見て、言葉を聞いて感じたことです。
皆さん、おおいに緊張はしつつも、場を楽しみ、フィードバックを受けて成長しようという意欲に溢れていました。かなり疲れるハードなワークショップにもかかわらず、最後まで皆さんの目は輝き、真剣そのものでした。
喩えるならば。ファシリテーターたちが時間を凝縮して成長しあうという意味で、まさしくここは、ドラゴンボールに登場する「精神と時の部屋」だったといえましょう。
今回参加されたファシリテーターたちにとってどのような成長につながったか。それは可視化するのは難しいですが、これからその方々が企画、運営されていくワークショップの中に少しずつ変化として現れてくるのではないかと感じます。
私自身も、これからワークショップを企画するときには、いかに機能するファシリテーションを作るかという意味で、今回得た学びを活かしていきます。
参加されたファシリテーターの皆様、本当にお疲れ様でした。また、本企画を運営された株式会社エイチ・アール・ディー研究所、ならび、こども国連環境会議推進協会の皆様、素敵な場を作ってくださり、ありがとうございました。
ミテモを含めて、本企画の主催の3団体が中心になり、「BEYOND / C」(読み方: ビヨンド・シー)という場を作っています。これは、アクティブ・ラーニングならびにプロジェクト・ベースド・ラーニング実践者による共創インフラという位置づけです。
BEYOND / C では、高度な学びの実践のための講座、企画を、さらに展開していきます。
関心がある方は、サイトを見ていただき、よければぜひ会員登録いただけたらと思います。
また、ご質問やお問い合わせをいつでも受け付けています。サイトの問い合わせフォームよりお送りください。
また、本企画で題材としたSDGsカードゲーム『THE SDGs Action cardgame「X(クロス)」』は、金沢工業大学SDGs推進センターが開発、公開されているものとなります。詳細は、サイトをご確認ください。
では、引き続き、ミテモと BEYOND / C の活動を発信してまいります!
学びを高めるって、ワクワクします!
(本記事内の写真はミテモの小林翔太さんの撮影です。ありがとうございました)
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