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深夜ラジオのイメージ
何もすることなく気づけば夜中の1時を過ぎた日曜日の夜。
休日を謳歌して、いざ寝ようと思ってもなかなか寝れないものである。
諦めてラジオのツマミに手をかける。
AM放送、周波数1287kHz、北海道民にはおなじみのHBCラジオだ。
いつも聞くチャンネルだが、日曜のこの時間にラジオを聞くことはほとんどない。
だからラジオのノイズと共に流れてくる声の主を私は全然知らない。
別に特段面白い訳でもないが、とりあえず聞き流す。
シティーポップというジャンルだろうか、落ち着いた雰囲気の曲が流れているが曲名は知らない。
普段夜更かしなんてしないから、深夜にラジオを聞くという非日常が心地いい。
2時前になった。
CMを挟んで、スピーカーからはこれまでとは違う雰囲気の放送が流れてきた。
「こちらはHBCラジオ、北海道放送です。札幌局、JOHR 周波数1287kHz、FM補完局、91.5MHz、函館局、JOHO 900kHz……」
各中継局の周波数と謎のローマ字4文字が淡々と読み上げられる。
どうやら謎の4文字のローマ字はコールサインと言うそうだ。
1日1回は必ずコールサインを放送することが法令で決まっているらしい。
馴染みある昼の番組のアナウンサーの声に感情があるのか分からない。
昼間の明るい声を知っている分だけ不気味に耳に残る。
「……遠別局、864kHzでお送り致しています。ただいま、放送開始まで音楽をお送りしています。なお、放送機器工事などのため、お聞きの地域によっては休止、あるいは中断することがありますがご了承ください。」
爽やかなアコースティックギターのBGMがさらに不安感を掻き立てる頃、どうやら今日の放送が全部終わってしまったようだ。
ただただBGMとたまに入るノイズがラジオから垂れ流されている。
普段聞くラジオが店じまいをする時を初めて知った瞬間だった。
ラジオの一日の終わりは意外と無機質であっけないものだった。
ただ、そこにはなぜだか魅力が宿る。
淡々と告げられる周波数とコールサインに何故か私は惹かれてしまった。
あの不気味さにラジオの二面性を見たような気がして。
それから私は訳もなくこの放送を聞きたくなって夜更かしをしたことが何度もあった。
その度に心細さと心地良さを感じながら眠りにつく。
深夜ラジオと言えば、多くの人はオールナイトニッポンやJUNKが先に思い浮かべると思うけど、私が初めて出会った深夜ラジオはこの無機質なクロージングだった。
そんな中学2年生の夏の何気ない思い出を何故か思い出した雨音聞こえる梅雨の真夜中。
たまにはRABラジオでも聞いてみようか。私はそっとラジオのツマミに手をかけた。