【バイトの話】なりきること
制服を身にまとった俺は最強だ。
俺は今、最高のホテルマンだ。
さあ、今日も堂々と自信を持ってはたらこう。
--
いま私はホテルでバイトをしている。
業務内容は宴会場の会場設営や、食事会場での配膳作業など。
ベストに蝶ネクタイがかっこいいあのホテルマンである。
今まで旅をしてきた中でずっと客としてサービスを受ける立場だったが、今の私はそのサービスを提供する人になっている。
なんとも不思議な感覚だ。
私は正直このバイトはあまり得意分野では無い。
上品な制服を着てやるのも性にあわない感じがするし、色々動き回って行動するのも自信がない。
今までやってきたバイトの中で最も周りを見て自発的に行動を起こす能力が求められていると感じるが、そういう力はまだまだ自分には足りないとも思う。
でもそういうことをやっていくことを求められて働いている。
そんな自分の意識を変えてくれるのが制服である。
制服というものは不思議なもので、着るだけでそれらの不安を払拭してしまうだけの自信が手元に舞い込んでくる。
いわば「その気になる」と言うやつだ。
その気になるのは基本的にあまり良くないとされているが、こういうバイトではなんでもいいから自信を持って行動することが大事だ。
経験としてはまだまだな私でもあの制服を着た瞬間に最高のホテルマンになりきる事が出来る。
とはいえ、そういうバイトだと家を出る時が億劫になってしまいがちだ。
だから私は家を出る時からスーツで行くようにしている。
正社員の方にはそんなにしなくていいよと言っていただけるが、これは人によく見られたいからやっている訳ではなく、自分のやる気を出して業務に入れるようにやっているのだ。
結局のところお客様から見れば正社員だろうとバイトだろうとホテルマンという括りで見られることに変わりない。
そうであるなら徹底的にプロフェッショナルになりきることが大事だ。
変な言い方になるが正直制服を着てる自分、なかなかイケてると思う。
制服のサイズがちょうどよく、太り気味の私でもスタイル良く見える気がするし蝶ネクタイをつけた鏡の向こうの自分を見ると「これはちゃんとホテルマンだ!!」と思える。
たかが服なんだけどされど服だ。
オシャレが好きな人にこんな言葉をぶつけたら怒られそうだが、それほど着飾ることに造詣が深いとは言えない自分からするとこの事実は結構興味深い。
見た目から入るのは言うほど悪いことじゃないのかもしれない。
--
明日もホテルでバイトだ。
いつの間にか緊張しかなかったバイトが楽しみに変わっていた。