人間をサイボーグ化する数々のテクノロジー 『生命機械が未来を変える』 スーザン・ホックフィールド インターシフト
<本文>
(2023年4月3日記)
本書のテーマは、「次世代に到来するテクノロジー革命」です。
サブタイトルでは、「コンバージェンス2.0」と命名していました。
かつて、物理学と工学が融合して「コンバージェンス1.0」となりましたが、今回は生物学と工学を集約、生命・自然・機械の融合の時代が来たということです。
このコンバージェンス2.0が人類の生活を一変させます。
本書では、現在の人類が直面している、エネルギー、浄水、医療、身体、食料における諸問題への解決策となるテクノロジーを紹介していました。
ちょっと目次を覗いてみると、
ウイルスが育てるバッテリー
代替エネルギーの問題とは?
エネルギー革命の最前線
タンパク質マシンを水フィルターに
浄水システムの実用化へ
21世紀の水利用を考える
がんを早期発見・治療できるナノ粒子
画像形成ナノ粒子を体内で運ぶ
脳を増強し身体の動きを取り戻す
自分で考える膝
意思に応答する義肢
筋肉ペアと脊髄を連結させる
地球のすべての人々に食料を
フェノミクスの進展
作物の生産性をさらに高める
遺伝子組み換え作物の可能性
コンバージェンス2.0を加速せよ
飛躍には何が必要か
教育システムを変える
などとなっていました。
著者は、マサチューセッツ工科大学、MITの初の女性学長を歴任した人です。
MITといえば、世界有数の優れた大学として、多くの俊傑を輩出してきた大学です。
本書では主としてMITで展開されている最新研究が紹介されています。
まずは、ウイルスが育てるバッテリーです。原理は、ウイルスを遺伝子操作して電子回路を育てた上、バッテリーを作らせるというものでした。
現在のものより、高速で充電され、有害な廃棄物をほとんど出さず、部分的に生分解可能なものです。
初めは、バカげていると、助成金申請をあっさり却下されました。女性研究者のアンジェフ・ベルチャーは、ひたすら声をあげて泣いたと、述懐しています。
しかし、彼女は諦めず、成果を上げて、助成金を勝ちとり、前進しています。研究者にとって必須なのは、この粘り、愚直さです。
皆さん、何事も要領よくやってるつもり、ちょっとやっただけで、「これはこんなものだ」とすぐに決めつけて、既成概念の塊となって惰性でやっていませんか。
地道にしっかり、こつこつやる「愚直さ」がない人は、決して一流にはなれません。
ベルチャーは、アワビが精緻な仕組みで貝殻を作ることに驚き、ここからインスピレーションを得ました。
アワビは海中から効率よく元素を集めて殻を形成しますが、彼女はこの原理を応用して、ウイルスにガリウム砒素や、シリコンなどの元素を集めさせて電子機器を作ることも可能では?という発想を得たのです。
ここも、常にそういうことを考えているから、つながったと知って下さい。
現在、人類のエネルギー需要は、1800年代初頭の250倍以上になっています。
人口増加とテクノロジー発展と共にエネルギー需要も増えてきましたが、化石燃料は有限で、CO2も排出することから、代替エネルギーの必要性が叫ばれてきたのです。
ウイルスは生物界のミニマリストで、必要最低限のシンプルな構造をしています。さまざまなウイルスを調べ、彼女はM13バクテリオファージウイルスを探し出しました。
小さくて細かいチューブ状のウイルスです。長さは1000ナノメートル弱で、人の毛髪の幅の10分の1にあたります。
ナノとは10億分の1のことで、1ナノメートルは10億分の1メートルです。
彼女は原型となるバッテリー開発に成功し、次は実用化に向けて研究を続けています。
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無期懲役囚、美達大和のブックレビュー
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