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(美達の蔵出しオススメ)138 『漂白される社会』 開沼 博(かいぬま ひろし) ダイヤモンド社 2013年3月発売


※初期のレビューです。今回、初出です。ご留意下さい。
 
本書では現代社会を漂白される社会と定義しています。
漂白という用語は終章で唐突に登場しますが、著者によれば「周縁的な存在が隔離・固定化・不可視化され、周縁的存在が本来持っていた、社会に影響を及ぼし変動を引き起こす性質が失われていくこと」だそうです。
その周縁的な存在として、売春島、ホームレスギャル、シェアハウスに巣食う人々、生活保護受給者、未成年少女を現金化するスカウトマン、違法ギャンブル、脱法ドラッグ、右翼と左翼、偽装結婚、ブラジル人留学生、中国エステ経営者を列挙していました。

大まかに言えば、社会の裏側、底辺の世界とそこで生きる人々のルポとも言えます。
ただのルポとの差は、著者がそれらの世界について綴られた多くの書を援用しつつ、社会学者としての論理で分析・解釈している点です。
読者によっては、そんなことはいいけど、ルポ自体が非常に興味深い書とも言えるでしょう。

私は長期刑務所にいるので、この書に描かれた世界は特に新奇でも、平常の生活や感覚から乖離かいりしたものではなく、むしろテーマによっては、もっと深いもの、あるいは本音や真相はこうなのにな、というものも少なくありませんでした。
このような書を読む時に痛感するのは、どんなに深く取材したつもりでも、その核とも言える部分には、なかなか辿たどりつけないのだな、ということです。
それでも普通の社会人には十分にインパクトがあり、好奇心や疑問について満足させるものだと思います。その点では本書のレベルは深いです。

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