デパートの屋上に庭師が集結!「てっぺんの坪庭展 ㏌愛知」参加レポート
こんにちは。
ガーデンデザイナーの柵山です。
木を植えたり庭をつくる人って、同じに見えるかもしれませんが、
実は、役割によってそれぞれたくさんの肩書きがあるんです。
造園家・ランドスケープアーキテクト・造園職人・エクステリアプランナー、植栽プランナーなど様々です。
“庭師“に会える「坪庭展」に行ってみよう!
今、”庭師“という肩書きをフィーチャーした「坪庭展」という取り組みが、全国の庭師さんの中で、活気を帯びています。
造園業務とは、基本的にクライアント業務であり、依頼があって初めて仕事がスタートします。社会的には「建設業」とされ、専門職としてあまり表に出てこない存在です。例えば、庭師に会いたいと思ってもどこに行けばいいのでしょう。庭師や造園屋さんのお店ってほとんど見かけませんね。
だからこそ、庭師が、自らの意思で作品(坪庭と呼ばれる小さな庭)をつくり、展示会を開催して一般客に公開するという「庭坪展」のようなイベントはとても意味のある活動だと思います。
そんな坪庭展が、この秋に名古屋で開催されました。
場所はなんと、デパートの屋上。
名古屋栄三越(オリエンタルビル屋上広場)です。
実は、私もご縁からイベント協力として参加しており、プランターによる植物飾りの展示を行ったのですが、この記事を書くにあたり取材という立場で参加庭師さんの思いを色々聞くことができ、とても有意義な機会となりました。
簡単ではありますが、今回出店されていた9人の庭師の坪庭作品の紹介をしたいと思います。
その前に、紹介したい方がお二人います。
1人は主催者でもある実行委員の高見さん。
ご自身も庭師として日々の庭仕事に追われる中、出展者募集から企画やチラシの制作まで全てを手掛ける当イベントの総合プロデューサーです。
高見さんは現役庭師でありながら、以前から造園業界の活性化のために、様々な場所で手弁当でイベント運営をしてきたような方。
彼が掲げた今回のイベントのメッセージがこちらです。
庭師は人々の豊かな暮らしや文化をつくってゆく存在であり、現代こそ重要な役割を担っていると言っています。
庭のスタイルも多様性を認め、多様なデザインや庭師が誕生することが発展に繋がるという考えは私も非常に共感しています。
そしてもうお1人。
共催として当イベントを支える造園資材を扱う竹藤商店の秦野社長です。
秦野社長からは、多くの興味深いお話をお聞きしました。
かつて新築の際、神主と大工と庭師が先ず集まり、そこで庭師は、緑や風や光の在り方なども含め、人の暮らし安い環境を提言してゆく立場にあったと言います。
現在は、建築業の中に組み込まれ、庭師は下請のような立場になってしまったという事です。
庭師が持ち合わせる上手に自然と付き合うコツといった生活の知恵袋のようなものを今一度クローズアップし、庭師という職業がもっと社会と関係と持ち、憧れの職業になるようにしたいという熱い思いを語っていただきました。こちらも強く共感いたします。
今回全てのご紹介は割愛しますが、イベントには運営や協賛・協力・後援という形で様々な方が携わっており、何か庭師の団結力のようなものを感じました。
さて、それでは、それぞれの坪庭の紹介をしてゆきます。
個性的な庭師が、それぞれの坪庭で自己表現!
今回の坪庭展では1人あたり1坪(1.8m×1.8m)という小さなスペースでありながら、9名それぞれの表現がありました。
1坪といえ、会場はデパートの屋上。搬入もエレベーターで、作業も基本的には夜間となります。このように制限のある中で、どれだけの自分のやりたい表現ができるのかというテーマは、ネガティブな問題ではなくて、勉強となる貴重な経験だと言っていた庭師さんの言葉がとても印象に残っています。
薫風舎(弥富市)
“未来への階(きざはし)”という作品。歴史というものを「螺旋階段」と捉え、未来へ繋ぐという今回の坪庭展の象徴のような作品でした。水景や花畑やなど1坪の中にいくつもの表情を入れ込んだり、坪庭表現の楽しさや可能性を伝えてくれます。
東海園株式会社(名古屋市)
金魚が泳ぐ水槽が縦に積まれた世界。遊び心があり、様々なシーンで活用できそうな、すごく可能性を感じる作品だと思いました。ライトアップしたら相当良いのでは!?
亀山造園(京都府)
洞窟の中の「水のしたたり」を表現したかったと亀山氏。こういう自分がいいなと思えるシーンを再現したいという思いに共感です。最も迫力がある坪庭である側面、それを構成する素材はほぼ廃品からできているという驚きの庭。ブラックのフレームは、とある現場で生じた廃品。ペットボトルなど廃材を活用した擬石は、軽量化されており、吊るしたりすることができ、屋上のような荷重制限のある場所では重宝する資材といえます。表現力が豊かで広いお庭も見てみたい気持ちになりました。
新栄造園(名古屋市)
屋上というシチュエーションから、空を借景にするということからイメージを広げていったとのこと。地面のコケに埋め込まれているのは鏡。下を見ると青い空が見える仕掛けにドキッとしました。ジョウロで鏡を濡らしてくれ、別の表情も見せてくれました。かすんだり、ゆがんだり、晴れたり、まさに心の鏡とも解釈でき、下を向いても、済んだ空を見せてくれる励ましの庭のようにも思えました。素晴らしい仕掛けです。
庭喜(津島市)
庭師の大野さんの庭づくりの基本は、「一木一草一石」。最低限の要素で余白を活かした空間づくりを心掛けているとのこと。三越での開催に合わせ、商人の家紋・分銅紋をモチーフにした地模様が、時間や天気や見る角度によって毎回違う表情を見せていました。
ドンゴロス(名古屋市)
大木を構成しているのはたくさんの流木。屋上という過酷な搬入条件だからこそ生まれた唯一無二の作品なのかもしれません。神話上の大木をイメージしているとのことで、足元のガラスが、もののけ姫のコダマのような、妖精に感じました。そう私が訪ねると、これは大木に寄り添う人の心を反映していると教えてくれました。若者が自ら命を絶つ報道にひどく心を痛め、人の心がガラスに思えたとのこと。心に残る作品でした。
株式会社神谷造園(豊田市)
日本におけるDry Stone Wallingの第一人者。全国を飛び回る石積み職人、いや石積みおたくと言ってもいいかもしれません。石に対する愛が凄いです。多くの職人からも尊敬され愛される神谷さんの提案は「パラメトリックな庭」。日本の伝統的な庭は、非対称で、曲線で、感覚的な世界。あえてそこに、幾何学的で計算できるデザインを投じる事で新しい庭の可能性を見出そうとしていました。神谷さんだからこそ行き着いたテーマかもしれません。
株式会社ニワ暮ラフト(犬山市)
テーマは「足元の景色」。1坪という条件の中で、眺める庭をデザインする方が多い中、園路デザインという機能美を表現した作品でした。人が使ってこそ庭であるというこだわりを感じ共感するところです。「つぼつぼ紋」という知る人ぞ知る伝統模様をモチーフにしており、庭師の日本の伝統文化に対する見識の広さに関心しました。
伊久美造園(静岡)
四方を囲む黒壁の一部に穴が開いており、そこを覗くと、向かいの壁の丸い穴から光が漏れ、
床には水面が見える仕掛けとなっています。坪庭という解釈を大きく広げ、庭師とは、自然素材を用いたアーティストでもあるという、可能性を伝える作品でした。
庭師がつくるものには「物語り」がある。
これは一人の庭師さんが言っていた言葉です。
庭師がつくるものには、カッコいいとか見た目の造形美だけでなく、そこには意図があり、知恵があり、庭と関わる上での楽しみ方があちこちに仕込んであるのです。見るだけではすぐに分からない作り手の想い。話を聞いてみると全然違った見え方になってきます。
たった一坪の世界に、いや1坪だからこそ、世界の広がりや時間的な奥行がより印象的に感じられます。まさに自然を味わうための極意のようなものを感じました。
日々自然と向き合う庭師。
そんな彼らの存在は、貴重であり、その知恵や経験をもっと世に届けたい。
そんな想いになりました。
シャイな職人さんが多いですが、皆で盛り上げて、坪庭展が、発展してゆくことを願っております。今後の展開が楽しみです。