気が整った聖域で喫む、一期一会のブレンド茶
週末は愛菜家 vol.16
前回の記事では緑茶の茶摘み~製茶までをレポートしましたが、今回は人が持つ本来の力を呼び覚ます「和草茶」の魅力に迫ります。
三重県多気町「VISON」にある「本草研究所 RINNE」におじゃまして、季節ごとのハーブや薬草をブレンドした“一期一会のお茶”に出会ってきました!
「VISON」に佇む和草茶カフェ
伊勢神宮の西に位置し、多くの気(命)を育む場所として発展してきた多気町。江戸時代に流行した「本草学」の聖地のひとつとして、著名な学者を輩出した場所でもあります。
本草学は中国や東アジアで発達した薬物学で、植物をはじめ動物や鉱物の薬効も研究されています。
そんな多気町に2021年、日本最大級の商業リゾート「VISON」が誕生しました!
[癒・食・知]をテーマにしたVISONでは、広大な敷地に多彩なテナントが入り、ショッピングをはじめ宿泊や温浴施設などが楽しめます。1日ではとても周りきれないほどの規模感です。
VISONはいくつかのエリアに分かれているのですが、観光客が集まる商業エリアから少し離れた閑静な場所に、立ち上げの原点ともなった「本草エリア」が設けられています。
そこに佇むのが「本草研究所RINNE」。
心と体を癒す和草茶と、心地よい暮らしにまつわる品を集めたお店です。
オーナーの大島幸枝さんが出迎えてくれました!
お店に入ると、植物療法士として活躍する鈴木七重さんのハーブティーが並んでいます。
今回取材させていただく「和草茶」のブレンドも鈴木七重さん自らが手がけているそう。
気になる症状別にチューニングされたハーブティーたち。
本草研究所RINNEの店内は、木のぬくもりを感じる癒しの空間。
“気が整った場所”というとわかりやすいでしょうか? この場にいるだけでリラックスできる。そんな場所です。
本草研究所RINNEのオリジナル商品も置かれています。
「薬草スパイスコーラ」も販売中。どんな味か気になりますね。
植物の力を暮らしに取り入れる書籍なども取り扱っています。
人にやさしいものづくりを手がける「りんねしゃ」
今回お話を聞かせていただいた大島幸枝さんは、愛知県津島市にある「りんねしゃ」のオーナーでもあります。
幸枝さんのお父さまは北海道滝上町に移住され、広大な自社農園で日本の在来種である除虫菊や赤丸薄荷を栽培中。除虫菊は菊花線香に、赤丸薄荷はオイルやハーブティーなどに加工され、日本中にファンがいます。
りんねしゃの前身は、幸枝さんのお母さまが立ち上げた「津島エプロン会」という主婦の勉強会。暮らしに本当に必要なものや添加物などを使わない安全な食品を追求していくうちに、りんねしゃはお店だけでなく企画から生産、加工、流通までのすべてを担う現在の形になっていきました。
また、VISON内にある農園と、そこで収穫したオーガニック野菜を楽しめるレストラン「nouniyell(ノウニエール)」にも、りんねしゃはアドバイザーとして関わっています。
カフェのまわりにはさまざまなハーブが
外庭には、色とりどりのハーブや樹木が植えられています。
本草研究所RINNEの活動に共感した仲間が苗を持ち寄り、植えてくれるそう。
「オープン時が最高じゃなく、来るたびにどんどん良くなっていくお店なの」幸枝さんはそう言って微笑みます。
この日は北海道で多く見られる「はまなす」が花を咲かせていました。
日本で古来から咲いていたバラの一種なんですって。
摘んだはまなすを丁寧に水洗いして乾燥させると・・・
和草茶の原料のひとつになります。
全国の生産者から季節ごとのハーブや薬草が届けられます。
欲しいハーブを注文して集めるのではなく、その時期に採れた旬のハーブを全量買い取りすることで生産者さんを応援するのが本草研究所RINNEのモットー。それらを鈴木七重さんが絶妙なバランスでブレンドしています。
朝・昼・夜。時間帯で選ぶ「3種の和草茶」
本草研究所RINNEの「和草茶」は、体の症状別にアプローチするのではなく時間帯で選ぶことを提案しています。体のバイオリズムを考えると理にかなっている気がしますね。
しかも、季節によって中身が変わっていくので飲み続けるのも楽しそう。およそ2ヶ月ごとにブレンド内容が変わるそうです。日本人が大切にしてきた二十四節気・七十二候を香りと味で感じることができますね。
また、本草研究所RINNEでは難しい知識よりも「お手当て」と呼ばれる古来から伝承されてきたおばあちゃんの知恵袋のような雰囲気を大事にしているそう。身近な植物やハーブを暮らしの中に上手に取り入れて、心身を整え・癒すことを提案しています。
朝に飲む枝扇(えだおうぎ)は、桑やヨモギを中心としたデトックス作用が高いお茶。
日中に飲む摘花(つみはな)は美容や健康を意識したブレンドです。必ず季節の花びらを入れることで、気分を上げることも意識しているそう。
夜に飲む草縁(くさのゆかり)はリラックス効果の高い赤丸薄荷をベースにブレンド。夜中に起きてしまった時に草縁を飲むのもオススメ。スムーズな眠りに誘ってくれそうです。
ちょうど取材時の摘花には「はまなす」がブレンドされていました。
ピンクの差し色が入ると見た目も華やかになりますね♪
今日はカフェメニューの中から「3種飲み比べ」を試してみました。
なんだか理科の実験のようで、テンションが上がります。
写真には入っていませんが、おいしいヴィーガンクッキーも添えられていました。
1杯目はそれぞれの違いを楽しみ、その後は自由にブレンドして自分好みの和草茶を楽しめます。
色も、香りも、味も、緑茶の飲み比べとはまた違った個性が感じられます。
薬草系のお茶は総じて「苦い」「渋い」イメージを持っていた私ですが、上手にブレンドすればおいしくいただけることに驚きました。
「苦みの強いものに甘いものを足すのではなく、あえて別の苦いものを足してあげると不思議と飲みやすくなるのよね」幸枝さんがそう教えてくれました。
全国の生産者が、気軽に情報発信できる場に
VISONの中でも聖域となる「本草エリア」への出店は、VISONのオーナーから直々にオファーがあったとか。幸枝さんは本草研究所RINNEを、若い人たちに興味をもってもらい、年配の方々もリラックスできる場所にしていきたいそうです。また、「全国の生産者が自然と集まり、気軽に情報発信ができる場所にもしていきたい」と話してくれました。
うちの実家まわりにも「雑草」という名のさまざまな草花が生えているのですが、それぞれをよく知ることで「雑草ではなく薬草」と捉えると、また違った見え方になるのかなと感じました。
時とともに失われつつあるおばあちゃんの知恵「お手当て」を次の世代に伝えていくお手伝いがこの仕事を通じてちょっとでもできるといいなーと、一期一会のお茶を喫みながら想像した1日でした。