田舎暮らしで癒しを与えてくれる、予期せぬかわいい訪問者。
なんら娯楽のない田舎でひたすら仕事に励むわたしに癒しを与えてくれているのが、時折ふらりと現れる小判ちゃん。本名は知りません。名前は、勝手に名づけました。でもって、訪問者の主はかわいらしいネコちゃん。黄金色の美しい毛なみをしています。それが由来。もっとセンスのある名前をつけるべきでしょうか。
ある日のこと。いつものように部屋の中でパソコンをカタカタ打ちながら仕事をしていると、「にゃー」とかわいらしい声が聞こえてくるではありませんか。
うちもご近所さんもネコは飼っていません。昔から実家の周辺で見かけることもなかったゆえ、もの珍しくてテンションがぐぐぐーっとアップ。ふと窓の外を見ると、お初にお目にかかりますのネコちゃんの姿が。
ネコはコタツで丸くなると言われるくらいだし、私にとってはネコカフェ以外でお目にかかることのない貴重な生き物です。それがまさかうちの家の前で拝める日がくるとは! なんたる幸せ!!
誰が興味あんねん! なんですけど、わたしは茶色い毛色が好みなもので、目尻がデレデレとなだれのごとく垂れ下がりました。上にピンとしっぽを上げ、トボトボとゆっくり歩く後ろ姿も、これまたなんたるかわいさ!
家の中から、これでもかってくらい目尻をひたすら垂らし続け、じーっと見つめていると、ネコはくるりと振り返り、こちらをじーっと見つめ始めました。み、み、見られている……。
エサでもあげたいところ。でも、ネコを飼った経験がなく、何をあげたら良いやらさっぱりわかりません。サザエさんの歌に「お魚くわえたドラネコ」という歌詞があるし、これまたサザエさんちのタマが魚をくわえていた場面を見たことがあるような、ないような。昨日の夕飯、焼き魚だったかな? などと思い返してみるも、エサを与えてなつかれたとて飼ってはやれないし、もうひたすら見つめ合うしかありません。
相手は人間でもないのに、なぜか手を振ってみるわたし。ネコが振り返すはずもないのですが、さらに勢いよく振ってみました。逃げも隠れもせず、ずーっとこちらを見ています。しばし、ネコに見つめられる幸福感。天にも昇るような気持ちとやらを、じわじわかみしめました。
ただ、いま思い返してみると、ネコは、なにしとんねんって顔をしていたような、していなかったような。第三者が見ていたとすれば、なんともシュールな絵面。ひたすら見つめ合った後、ネコのほうがしびれを切らし、どこかへ行ってしまいました。
後で親に聞いてみると、「あ、茶色いネコでしょ? たまにくるよ」とのこと。近隣の同級生の家のネコ説があるものの、聞いてみると「違う」と言われたそう。ならば、お前はどこのネコじゃ? 結局わからぬままです。
数日後、またまたふらりとやってきた小判ちゃん。また立ち止まりこちらを見ているので今度は外に出てみると、人間慣れしているのかまったく逃げも隠れもしません。それならば写真を撮ろうと思い、スマホを取りに家に戻っている間に姿を消してしまいました。しょぼぼーん。
毎回ほんの1分にも満たない出来事ですが、小判ちゃんは、何もないこの田舎で、私をほかほかぬくぬくと癒してくれる湯たんぽのような存在になっています。けれど、気まぐれにやってくるため、こちらがいくら会いたいと切に願ったとて、またいつきてくれのやらさっぱりわかりません。
今度はいつ会えるのだろう……。まるで片想いでもしている相手と会える日を心待ちにしているような感じが、かえって良いのでしょうか。