日記#14
朝から「ヤツ」と出会った時の悲しさといったらありません。
黒くて羽のついた、カブトムシやクワガタではない「ヤツ」です。
いつものように仕事へ行く支度をし、あとは靴を履いて燃えるごみを捨てたら出発、といったところでした。
築30年、2Kのアパート。朝7時。
キッチンからリビングへ、ソロソロと歩いてくる黒い生き物。
ーーー"ヤツ"だ。
今"それ"を目視した時のことを振り返ると、1つ自分の成長を感じることがありました。
出くわした時に発する「キャッ」などという軟弱な声が出なかったことです。
女の1人暮らし、誰もいないところで「キャッ」と叫んだところで、誰も助けてはくれません。
幾度か戦い、経験を積み、確実にヤツを"殺れる"方法を身につけたからこそ、「キャッ」はもう必要なくなったのだと理論付けておきましょう。
また、ヤツに出会わず家を出ていれば、1本早い電車に乗れるほどの余裕を持って準備していたため、
「虫の1匹を仕留めることなど大したタイムロスではない、焦らず殺ろう」とかなり心に余裕があったことも強気でいられた理由の1つと言えるでしょう。
「必ず仕留める」という覚悟と強い意志から、「ふぅ」と精神統一の息が漏れました。
これをため息と言います。
それからはあっという間です。
近くにあったファブリーズを手に取り、数回噴射。
元々置いていた忌避剤を既に食べていたのか、仕留められるほど弱るまでに時間はかかりませんでした。
冊子型の広告を重ねて折りたたんで簡易の武器を作り、二、三度叩くと動きが止まりました。
その辺りからヤツの姿を見るのが嫌になってしまったため、ティッシュを上からかけて見えなくし、武器でつつき、生死を確認しました。
やった。達成感と少しの罪悪感と嫌悪感。
朝からとても複雑気持ちになりました。
「こいつが出るほど汚い部屋ではないはずなのに」と悲しくなりました。
それでも、焦らず、冷静に、確実に、諸悪の根源であるヤツの息の根を止めることが出来た。
これは自信に繋がります。
ヤツにも効果があることがわかっている有名メーカーのワンプッシュ殺虫剤「蚊がいなくなるスプレー」を寝室、リビング、キッチン全てに噴射して、清々しい気持ちで仕事へ向かいました。
気持ちはもうひと仕事終えていましたが、なんとか、1日無事に過ごせました。
いつか、隣に誰か頼りになる人がいてくれる状況になった時には、私は「キャッ」なんて言ってその人に飛びつくのでしょうか。
はたまた、「はいはい」とでも言って率先して叩きのめそうとするのでしょうか。
後者な気がします。