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第三の神出現? 解き明かされた全ての謎 久正人『カムヤライド』第12巻
『カムヤライド』の物語も、いよいよクライマックスです。オトタチバナ、神薙剣と天津神たちとの戦いも終盤となり、ついにヤマトタケルが――というところまできて物語は急展開。ついに明かされるノミ様の正体と、モンコとの関係。その驚くべき真実とは……
国津神を操る謎の人物・ノミ様に使嗾された蝦夷討伐のため、東国に向かったモンコたち。その途上、走水の地で、一行は天津神との決戦を迎えることになります。モンコがウズメに抑えられている間に、因縁のフトタマに突撃したオトタチバナ・メタルは、自重で水没――思わぬところで神話が再現されてしまったものの、オトタチバナは己の魂をメタルボディに移す魂遷を応用して、思わぬ反撃を……
というところから始まるこの巻では、冒頭でこのオトタチバナvsフトタマ戦が決着。文字通り魂のぶつかり合いとなった両者の戦いの行方は――何故こんなに作者の作品でも屈指のマニアックな絵面になってしまうのか!? という大変なことになりましたが、しかし思わぬ締めもあり、満足のいく展開と言えるでしょう。
しかし、大団円に忘れ去られていたモンコは、ウズメに体を乗っ取られるという事態に陥ります。そしてウズメ=カムヤライドは、「人間」には反撃できない神薙剣を滅多打ちにして追い込み、これに対してついに封印を解かれた神薙剣の刃がカムヤライドを……
そんな最悪の状況になりながらも見せてくれるのは、モンコのヒーローとしての、いや人間としての魂。この物語の始まりから彼らを見てきた読者にとっては感無量としか言いようのないシチュエーションから、ついに――という展開には、熱くなるなという方が無理というものでしょう。
こうして、ついにこの戦いのもう一つの、そして最大の目的を果たしたモンコ。いやはや本当に良かった、これにて大団円――と言いたいところですが、ここまででまだこの巻の四割程度に過ぎず、ここから大波乱が待ち受けます。
目的は果たしたものの、まだウズメに体を奪われたままであり、さらに深手を負ってしまったモンコ。そこに現れたのは、ノミ様――今回の戦いの黒幕である彼女(?)が、ついに文字通り降臨したのです。
ハジの一族の親方であり、かつて対神殺し用の兵器製作を求められてプロトタイプ・カムヤライドを作り出しながら暴走し、王の命で処刑されたというノミ。タケゥチが丹念に調査を重ねた結果、その死自体は真実であると証明されたものの、不気味な「その後」の顛末が語られ、真相はいまだに謎に包まれていました。
間違いなくノミは死んでいるのか。なぜモンコはノミと(指紋が逆転している以外)瓜二つなのか。そもそも、ノミはなぜ処刑されたのか。彼が真実に作り出したものは何だったのか。そして、なぜ今、国津神と蝦夷の背後で暗躍しているのか……
そんなノミにまつわる数々の謎、いやノミと瓜二つの存在であるモンコにまつわる謎も含めて、全てがこの巻の後半で明かされることになります。オトタチバナ・メタルの、あるいはタケゥチの存在にも絡めて描かれるその真実は、ただただ圧巻というほかありません。
その内容を、ここで明かすことは避けましょう。しかし、一つだけ許していただければ、ここで描かれるのは、国津神でも天津神でもない、第三の神というべき存在であると、それだけは言えます。
天津神たちですら想像していなかったであろう第三の神を前に、オトタチバナ・メタルを、神薙剣を欠く人間たちは抗うことができるのか。唯一抗うことができるとすれば、それは人の世と神の間に線を引き、神を逐う戦士・カムヤライドのみですが……
これまでヒーローとして、人間として数々の勇姿を見せてくれたモンコ。彼が再び立ち上がる日を早く見たい――心の底からそう思います。
それにしても、(今頃気付いて恐縮ですが)プロトタイプ・カムヤライドのシルエットは、なるほど幽霊のような存在のノミが纏うのに相応しいものというべきでしょうか。脱帽です。
前の巻を紹介したブログ記事はこちら。