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最強の証明とは!? モフモフ狐の新たな旅 張六郎『千年狐 干宝「捜神記」より』第11巻

 怪奇ムード濃厚だった「捜神怪談編」が完結し、一年以上の間をおいての復活となった『千年狐』。その間に現代ホラー『落首村』が発表されたこともあり、この先もこういう路線で行くのかな、と思っていたところに始まったのは「最強(さいつよ)の証明編」。一体何が起きたのか……

 都で怪奇事件を担当する妖考事部に入り、青年役人・石良とチームを組んで次々と事件を解決してきた廣天。しかし石良に重い感情を抱く大富豪・石崇に正体を知られた廣天は、牢に繋がれた上に、その前に負った傷によって瀕死の状態となってしまいます。
 しかしそこで新たに開花した能力によって周囲から少しずつ気力を吸収し、復活した廣天。都に居られなくなった彼女は、神花と共に都を離れ、かつて暮らした燕昭王の墓陵に帰ってきましたが……

 ――その姿、滅茶苦茶モフモフ! なぜ!? あのスリムで飄々とした、そして天然な廣天はどこへ!?
 そんな読者の疑問をよそに、何故か丸々とした狐の姿となった廣天は、己が最強であることを示すために旅立つことになります。旅を共にするのは神花、そしてモフモフでは人後に落ちない妖・ヘイヘイ――しかもこれから巣立つ小ヘイヘイやら生まれたての幼ヘイヘイまでいるのですから、カワイイことおびただしい。

 なにはともあれ、最強を証明するための旅は始まりました。
 しかしこの狐、以前武術道場に入門した時に散々ポンコツぶりを発揮したのでは……
(そして早速冒頭から登場する、ほとんど廃人と化したその時の師父。一体彼に何が――いや、絶対廣天のせいですが)

 というわけで、前章からのあまりの落差に驚かされる新章ですが、基本的には各地を旅する廣天たちが、見覚えがあったりなかったりするキャラクターたちと出会い、対決する(?)姿が描かれます。
 しかしそこに登場するのも一筋縄ではなく、
・祟る殺人巨大鹿
・土中から現れる羊のような脳喰らい
・鞭を振り回す医者と、人に駆け比べを挑む獺
・人に裁きを求める蛇
と、文章で書いても何がなにやらという怪物・怪人揃い(なんとなく、どこかで見たような字面もありますが……)。

 当然というべきか、その姿は極めてシュールなギャグと共に描かれます(毎回登場しては狼藉を働き、そして蹴散らされる、異常に口調が丁寧な賊(強盗共同体)が印象的……)。しかしその一方で、「虞蕩が麈を射る」など、古典怪談・奇談を題材としたエピソードもサラリと描かれ、そういえば「捜神記」が原典だった! と再確認させられるのも心憎いところです。

 そんな中で異彩を放つのは、その後の石良が描かれるエピソード「它比の証明」です。廣天が姿を消した後も妖考事部として働く彼の前にある晩姿を現したのは、山の所有権を巡って裁きを頼みに来た蛇で……
 と、ほとんど帰ってきた「捜神怪談編」というべき内容ですが、一目みてヒッとなってしまう姿の蛇の問いに対して、淡々と石良が答えていく背後に描かれる影芝居のビジュアルが純粋に凄く、これはぜひ実際に見ていただきたいエピソードです。

 それにしても、最強とはどうすれば証明できるのか、その手がかりもわからないまま、廣天たちの旅は続きます。
 この先も読者を困惑させるようなエピソードが続く「最強の証明編」は、一体どこにたどり着くのか――既に最強の中国古典シュールコメディホラーの向かう先が楽しみです。

前巻を紹介したブログ記事はこちら。


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