帰ってきた恐竜人ガンマン! 東直輝&久正人『龍と霊 DRAGON&APE』第1巻
恐竜人のクールなガンマンが帰ってきました。久正人の名作『ジャバウォッキー』『ジャバウォッキー1914』と同一の世界観ながら、時代はぐっと下って1941年――再び世界大戦が迫る中、恐竜人のガンマンと、元陸軍中野学校の男のバディが、恐竜人たちの秘密結社による陰謀に挑みます。
1941年、上海――その阿片窟で、廃人同様に日々を過ごしていた男・銃三――その前に現れた奇妙な仮面を付けた男・ダンテによって連れ出された銃三は、彼の素顔を見せられることになります。
マスクの下から現れたダンテの素顔は人間のそれではなく、恐竜を思わせるもの――そう、彼こそは滅亡を逃れて生き延び、二足歩行に進化した恐竜人の一人だったのです。
人類の歴史の陰に潜み、時に人類に協力し、時に敵対してきた恐竜人。しかしその中の一派が、世界大戦を焚き付け、人類を共倒れさせようとしている――そんな中、恐竜人と人類の犠牲を減らすべく戦っているというダンテは、ある任務のため、かつて陸軍中野学校で爆弾のスペシャリストとして知られた銃三に協力を求めてきたのです。
そんな二人を襲撃してくる謎の甲冑の一団。その一団を指揮するのが、かつての中野学校での同僚・真壁であることを知り、そして何よりも己の過去と決別するために、銃三はダンテの手を取ります。
かくて恐竜人と霊長類のコンビは、恐竜人の秘密結社「殻の中の騎士団」が狙う秘宝「龍の勝利」を奪取すべく動きだすのですが……
19世紀末を舞台に、秘密結社イフの城所属の女スパイと恐竜人のガンマンが活躍する『ジャバウォッキー』(2006-2009年 「マガジンZ」ほかで連載)、そして第一次世界大戦を背景に、恐竜人の少年ガンマンと人間の少女の「兄妹」の戦いを描いた『ジャバウォッキー1914』(2014-2018年 「ネメシス」で連載)。
作者独特のスタイリッシュなアートと、小粋な台詞回し、そして実在虚構取り混ぜた人々が登場する伝奇性――久正人の代表作の一つです。
本作はその久正人が原案に回り、漫画版『警視庁草紙』の東直輝が描く、『ジャバウォッキー』シリーズと同一世界の物語。(本作の第6話冒頭は、画は異なれど、セリフはほとんど『ジャバウォッキー1914』第1話冒頭と同じものとなっています)
アートは緻密で地に足のついたものとなり、男女コンビから男同士のコンビへと変わりましたが、「人類史の背後に恐竜人の暗躍があった」という豪快なアイディアを踏まえて、奇想天外かつシビアで熱いスパイアクションという点では、これまでと変わるところはありません。
特にアートにおいて、久正人が光と影のインパクトと、時に極端なディフォルメによって、在り得ざるものが在っても不思議ではない世界を描き出すのに対し、東直輝はどこまでもリアルに、そして端正に世界を描くことで、この世界の中に在る在り得ざるものを浮かび上がらせる。その手法の違いが、非常に興味深く感じられます。
などと先行する作品と比較して申し上げましたが、本作の場合、それらを読まなくても十分に楽しめることは間違いありません。何しろ、陸軍中野学校出身という「裏」の世界の住人であっても、銃三はダンテと出会うまで恐竜人の存在を夢にも思っていなかった男。
そんな彼の目を通じて、これまで見えてきた世界がガラッと姿を変えていく様は――そしてダンテが繰り広げる破天荒なアクションの数々は――初めてこの新たな世界に触れる読者のそれと重なり、新鮮な驚きを与えてくれるのですから。
そしてそんな銃三とダンテコンビの初仕事は、単行本の裏表紙(そして第一回冒頭のカラーページ)に描かれている北京原人の骨にまつわるもの。そう聞いてニヤリと出来る方は、この手の世界の愛好者だと思いますが――この北京原人の骨の化石は、日米開戦に伴い北京からアメリカに輸送される途中で消息不明となり、以来今に至るまでその行方が掴めていない、大いなる謎なのですから。
しかしその北京原人の、つまりは人間の骨を、恐竜人の秘密結社が求めるという、一見不可思議なシチュエーションで展開するファーストエピソードですが、この巻で描かれるその真の姿と意味は、なるほど非常に伝奇的であり、かつ物語の幕開けに相応しいものといえるでしょう。。
この巻のラストには、今回のエピソードのボスキャラと思われる恐竜人が登場、これまでのシリーズ同様、元となった恐竜を踏まえた特殊能力の持ち主と思われますが――その真価が描かれるのはもう少し先。このエピソードのラストまでが描かれるであろう次巻が、一刻も早く読みたくなることは間違いありません。
――と言いつつも、やはりファンとしては気になってしまうのは、これまでの作品との繋がりです。
ダンテの上司らしい「ミレディ」は、ネーミングからして妖艶な女スパイを思わせますが、やはりそんな人物は一人しか思い浮かびません。
またダンテにしても、そもそもオヴィラプトルのガンマンがそんなにいるとは思えないことを考えれば、そして彼がこの先の世界の向かう先をある程度知っているかのように描かれていることを思えば、彼はもしかすると――と、この先のことを考えると楽しみは尽きないのです。
これまでの『ジャバウォッキー』シリーズの紹介はこちら。