享保十三年、長崎から江戸に運ばれるのは…… 茂木ヨモギ『ドラゴン奉行』第1巻
七月鏡一といえばアクション色、SF・伝奇色の濃い漫画の原作者であり、時代ものはほとんど手がけていなかった印象ですが、『タイフウリリーフ』の茂木ヨモギと組んで描く本作は、江戸は享保年間を舞台とした時代ものです。もっとも、タイトルが示すように一筋縄ではいかない物語です。なにしろ、享保十三年の日本に登場するのが……
命知らずの暴れっぷりで巷を騒がす無宿人・風鳴りの右門。ある賭場での騒ぎから捕らえられ、牢屋敷でも暴れた右門の前に現れたのは、南町奉行・大岡越前守の懐刀として知られる与力・桐生左近――彼の父でした。
役目のためには非情に徹する父に反発し、二年前に家を飛び出して無頼に身を落とした右門。しかしその父の命により、右門は父と共に長崎に向かうことになります。
長崎にたどり着いた右門に明かされた使命――それは八代将軍吉宗の命により、長崎から江戸へ「あるもの」を送り届けるというものでした。
そして、停泊する南蛮船の中で右門が目にしたその「もの」。それは和蘭陀国から吉宗に送られた巨大な南蛮の竜――ドラゴン!
そんなインパクト最高の第一話から始まる本作。史実において、享保十三年に長崎から江戸に運ばれたのは、中国の商人から吉宗に送られたベトナムの象(様々なフィクションの題材にもなっています)でしたが、それをドラゴンに置き換えてみせるとは、さすがに度肝を抜かれました。
象の輸送ですら、大変な苦労をしたという記録が残っているわけですが、それがドラゴンであったらどうなるか――もちろん仮定にしても途轍もない話ですが、翼と巨体を持つ存在というだけでも、象を以上の波乱を予感させることは間違いありません。
しかも、ドラゴンの周囲には早くも怪しげな一党の姿が見え隠れします。この時代、吉宗に敵意を抱き、彼の命を妨害しようとする者といえば何となく予想はつきますが――それが当たっているかどうかはさておき、難事にさらなる障害が加わることは避けられません。
この任務に挑むの右門は、腕っぷしは立つものの、ある一点を除けば普通の人間。その一点とは、彼の鋭敏な耳――コウモリやイルカの声すら聞き分けるという人間離れした聴力ですが、この巻では早くもその力が役に立つ姿が描かれました。この先も、この能力が切り札となるのでしょう。
なお、この巻の後半で描かれた内容を見るに、こドラゴン輸送が、先に触れた史実での象の輸送を踏まえたものになることが予想されます。
もちろん、それはあくまでも踏まえるだけで、その何倍も波乱と危険を孕んだものになることは言うまでもありませんが……
ちなみに、この巻で成り行きから右門と行動を共にした、生意気な通詞見習いの少年・西善三郎は実在の人物です。史実では本作に描かれたように才気煥発でありつつも、ひねくれ者であったようですが――本作でこの先も登場するのであれば、面白い存在になりそうです。