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怪奇火ノ華ノ男 もう一人の岩元先輩!? 椎橋寛『岩元先輩ノ推薦』第10巻
陸軍栖鳳中学校の書記長・岩元胡堂が、各地の特殊能力者を保護(推薦)するために奔走する『岩元先輩ノ推薦』も、本書で記念すべき10巻を迎えますが、ここから岩元先輩自身の過去を描くエピソードに突入します。各地を騒がす火炎能力者「火ノ華ノ男」。彼ともう一人の岩元先輩の関係とは……?
かつて解決した毒男の娘・瑠璃と再会した岩元。しかし瑠璃は無数の花の壁を操る能力者・能野愛生の襲撃を受け、岩元はその場から彼女を助け出すことになります。実は能野は彼にとっても因縁の相手――かつて彼を捕らえた四人のうちの一人。そして岩元は、瑠璃を相手に、己の過去を語り出して……
という導入のこの巻ですが、まず驚かされるのは冒頭の回のサブタイトル「火ノ華ノ男」です。これまで本作は偶数巻では××男と呼ばれる能力者と対決する長編、いわば怪奇人間シリーズが描かれてきましたが(ちなみにこの巻ではある場面で過去の箱男が登場)、まさかそれが今回、岩元本人(の過去の姿)だとは……
しかし今回のエピソードのサプライズは、それだけではありません。橘城先生の命で「火ノ華ノ男」を追う青年――この巻の表紙を飾るその青年の名は岩元胡堂。そして彼は「火ノ華ノ男」のことを「獅堂」と呼ぶではありませんか。
追ってきた青年が獅堂で、「火ノ華ノ男」が胡堂であればまだ分かりますが、この入れ替わりは何を意味するのか――この巻の中盤にかけて、意外な物語が語られます。
「火ノ華ノ男」を追いながら、命に背いて彼を保護して獅堂と名付け、共に逃避行を繰り広げていた胡堂。しかし陸軍栖鳳中学校の後輩(本編の時間軸では岩元の先輩である奥秋が一年生として登場)が「火ノ華ノ男」追跡に派遣された今、二人は追い詰められていきます。
唯一頼れる存在である橘城先生の指示で、ある地点に向かった二人。そこで彼らを待っていたのは……
と、ここで描かれるものについてはさすがに詳しく語れませんが、二転三転する展開にはただただ驚かされるばかり。そしてその果てに待ち受ける「真実」には、なるほど! と驚かされるばかりなのです。
そしてここでついに、本作のラスボスかもしれない存在が登場するなど、まだまだ謎と秘密を残しつつ物語は進み、この巻の終盤では、陸軍の研究所に入れられた「岩元」の姿が描かれることになります。
これまでと全く異なる環境に戸惑う岩元の前に現れたのは、栖鳳中学校の一年生・醤油屋――岩元が初めて出会った同胞である彼の能力とは……
どう転がっても過酷な展開しか想像できない中、物語は次巻へと続きます。
しかし、「火ノ華ノ男」に名前をつけて弟扱いするのはともかく、女装させて連れ回してリンゴ飴を舐めさせるのは、やはりちょっとどうかと思います、こっちの岩元先輩……
(そりゃ橘城先生に厳しいツッコミを入れられるはず)
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