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『るろうに剣心 明治剣客浪漫譚』 第三十五話「比古清十郎」/第三十六話「修羅の会合」

 これ以上戦いに巻き込むことを恐れて葵屋を離れ、もう一人の探し人・比古清十郎のもとを訪れる剣心。飛天御剣流の師である清十郎に対し、奥義の伝授を願う剣心だが、そこに薫たちが現れる。一方、蒼紫の前に現れた宗次郎は蒼紫を志々雄の下に誘い、両者は対剣心の同盟を結ぶことに……

 今回も二話まとめて紹介しますが、アクション的な見せ場はほとんどなく、その意味では谷間的な回ではありますが、しかしキャラクターの動きという点では、今後に続く重要な動きが幾つもあった回でした。

 何よりも大きいのは、第三十五話のタイトルにもなっている比古清十郎の登場でしょう。剣心の師匠であり、現・飛天御剣流の継承者というだけでも極めて重要なキャラクターですが、それは同時に、剣心の(人斬り抜刀斎になる前の)過去を知る者ということであり、そして剣心の飛天御剣流はまだ完全ではないということを証明する存在でもあります。
 人格的にも強さの上でも完成した存在として描かれていた剣心も、かつては未熟だった、そして今も成長の余地があるというのは、バトルものとしての要請から来たものではあるかと思いますが、それだけでなく、剣心のキャラクターを深めるものであることは言うまでもないでしょう。

 そしてここでもう一つ重要なイベントとして、剣心と薫(と弥彦)の再会が描かれるわけですが――東京編であれだけドラマチックに別れたわりには、かなりあっさり目のドラマだったのは、これはこれでリアルなのかもしれません。
 しかしここでは、すぐ上で述べたように、過去の剣心を知る(過去しか知らない)清十郎と、今の剣心――それも東京での彼と、東京を離れて京に至るまでの二つの段階の剣心を知る薫と弥彦、そして操が出会うことで、状況が変化していくのが面白いところでしょう。物語の状況が、剣心の周囲の人間が出会い、結びつくことで動いていく――剣心が状況を動かしているわけでは必ずしもないけれども、彼を中心に物語が動く、そんなダイナミズムに感心させられます。

 これは味方サイドだけでなく敵サイドも同様で、第三十六話の後半では、四乃森蒼紫と志々雄真実が敵を共通するもの同士手を結ぶことになります。
 この辺りは段取りではありますが、ちゃんとやっておかないと「抜刀斎は何処だ」「誰だお前は?」になってしまう――というのはさておき、またこの場面は同時に十本刀の(半分)のお目見えにもなっていて、これをまとめてやってしまう手際の良さにはやはり感心します。

 しかしそんな展開の中でこちらの目を奪うのは、やはり比古清十郎のあの襟です。初登場時の、表の顔である陶芸家をやっている場面からあの襟なので、「いくらなんでもあんな襟の陶芸家はちょっと」「しかし確かに比古清十郎といえばあのマントの襟だし」と大いにと惑わされました。
 が、原作を読み返してみたら、そちらでは初登場時は別に普通の襟だったので愕然としたわけですが――今回このように描写されたということは、清十郎は普段からあの襟が正史ということでよいのでしょう。そうに違いない。

 もう一つ、今回はキャラクターのやりとりが中心だった分、ギャグ描写も多かったのですが、その中で初対面の操と薫の会話で、白べこの冴が横から「一緒に暮らしてた?」「道中二人で連だつ?」「ムキになって否定するところがなお怪しい」と茶々を入れるくだりは、ベタではありますが声の演技の巧みさで非常に楽しいシーンになっていたと思います。

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