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台湾でスクーター爆走おばさんに風俗へ拉致られそうになった話。



2023年3月半ば、父さんと2人で台湾旅行に行ってきた。大学を卒業し、4月から公務員として働く僕の卒業旅行という意味合いもある(同期の友人との卒業旅行は去年に済ませてある)し、父さんが台湾の仕事仲間に会いに行くための訪台、という意味合いもある。まぁいずれにせよ、大学卒業!という晴れ晴れしい気持ちで臨んだ旅行の最中に、それは起きた。


ことの顛末を語る前の確認事項として、日本を除くアジア諸国はみんなそうなのかもしれないが、台湾はスクーターがすごく多い、ということを指摘しておきたい。誰も彼もがみんなスクーターに乗ってブイブイ言わしている。世界各国へ出張経験がある父さん曰く、中国もバイクがクソみたいに多いが、中国のバイクはみんな電動なので音がうるさくない。台湾はおそらくガソリン駆動なので音がうるさい、とのことであった。文字通りブイブイ言っているわけである。路駐のスクーターも多すぎて、歩道と車道の境界が曖昧になっていたり、家族で3人乗りしてたり、足場の所に飼い犬(カゴ、首輪無し)や大量のニラ(?)の束を積んでいたりする。まぁ何はともあれ、台湾の市民にとって、スクーターは日常生活に欠かせない足のようである。

左営駅前にて。多すぎワロス
歩道に大挙して駐輪がデフォ。


あれは、旅の2日目、夜遅くに高雄(台湾南部の都市)の露店にて晩飯を食い終え、ホテルに徒歩で戻る道中の出来事であった。


大学で中国文化論を専攻していた僕のエゴにより、道教寺院や孔子廟への参拝行程を詰め込んだ結果、すっかり遅い時間になってしまっていた。クタクタになりながら歩道なのか車道なのかを歩いていると、突然、路駐中のスクーターたちの物陰からおばさんの乗るスクーターが現れ、危うく僕と接触しそうになった。急ブレーキでスクーターを止めたおばさんはすごい勢いでヘルメットを取り、スクーターを降りて僕に詰め寄りながら何か捲し立て始めた。


その時、てっきり僕は「おい!ちゃんと前見ろ!あぶねぇだろ!」みたいなことを言われているのだと思っていた。大学で中国文化論を専攻していたのに中国語はてんで分からないのである。僕は「対不起, 対不起(ごめんなさい、ごめんなさい)」と言った後、魔法の言葉「我是日本人」を放った。中国の一般的な発音だと、例えば「是」は、そり舌音と呼ばれる発音で「シィ」と発音するのが正しいが、台湾訛りはそり舌音が弱いらしいので、舌先を軟口蓋ではなく硬口蓋に乗せながら「スー」と発音するのが良いようである。僕は同じ大学の研究室で仲良くさせてもらっていた言語学が専門の博士課程の先輩に感謝しつつ、僕の台湾訛りの魔法を喰らったスクーター爆走おばさんの出方を伺った。大抵の台湾人はこの魔法で撃退できる。僕は勝利を確信して早くもその場から背を向けようとしていた。

しかし、驚いたことに、おばさんは全く怯まなかった。むしろ、僕が日本人であると聞いてもっと勢いづいた感すらある。さらに言うならば、どうやらスクーターおばさんは怒っているわけでは無いようだった。速すぎる台湾訛りの中国語の合間合間に時折「イチ!ニ!サン!ヨン!ゴ!ミル!」という謎の日本語を、双眼鏡を目元に構えているかのようなジェスチャーも交えながら必死に挟んでくる。

全く意味が分からない。

そんな感じで僕が途方に暮れていた、その時であった。


隣りにいた父さんがいきなり、「ノーノーノーノーノー!」と首を大きく横に振りながら言い出した。そして続けて「He’s my son!」と強い口調で言い放ったのである。こちらも意味が、と言うより意図が全く分からない。急に「彼はオレの息子だ!」とか言い出した。いよいよもってカオスである。

しかし次の瞬間、不思議なことが起きた。父さんの発言を聞いたスクーター爆走おばさんは「唉呀……」と口を両手で覆いながら驚いたような様子を見せると、ずこずことスクーターに乗り直し、ブーンと夜の高雄の街へ消えていったのである。


僕は「はぁ〜〜……」というクソデカため息をつきながら歩き出す父さんに必死に追いすがりながら、「え?え? 今の何、どういうこと⁉︎」と問い詰めた。すると父さんは、苦笑いしながら答えた。


「ありゃ風俗の勧誘だよ」


ポカンと口を開けたまま呆然と立ち尽くす僕に、父さんが続けて言う。


「イチ!ニ!サン!ヨン!ゴ!ミル!って言ってたろ? ありゃ1〜5の女の子から1人選ぶってことだろう。お前は老けて見えるから、同年代の男2人が夜な夜な女を探してるとでも思われたんじゃないか?」


素直に「えぇ〜〜〜⁉︎」と僕は思った。たとえば、新宿の歌舞伎町とかで派手な格好をしたニイチャンに「お兄さんこの後どう?カワイイ子揃ってるよ」と声をかけられるとかなら全然分かる。しかし、まさかスクーターで爆走してくるおばさんに風俗の勧誘を受けるとは思わなかったのである。


ホテルに戻った後、父さんに「さっきのエピソードは母さんには言わなくて良いからな」と釘を刺された。確かに、真面目を絵に描いたような母さんに言ったら卒倒しかねない。まぁもっとも、僕は大学4年(1年目)の冬に敢行したピン○ロ巡りのこともこの1年間母さんに無事隠し続けることが出来ているので、まぁ大丈夫であろう。


全く、この世にはまだまだ僕の知らない魑魅魍魎が跳梁跋扈してるんだなぁ。そんなふうなことをしみじみと思いながら、11年ぶりの海外旅行で体調を崩し高熱にうなされる、今日この頃である(この記事を深夜に書いたことで熱がぶり返した気がする)。


(終)

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