【家計管理】「リタイア期」の資産は毎月いくらまで取崩しても大丈夫か?
リタイア期の生活費
リタイア期の生活費の資金源は、「年金+資産取崩し」である場合がほとんどだ。
中には、使っても使い切れないほどの不労所得があって、資産の取崩しなど不要であるという恵まれた環境の人もいるかもしれないが、そんなケースはごく稀であろう。
大抵の人は、それほど余裕がない中で生活しているのだ。
年金は、リタイア期の資金源の大きな柱であることは間違いないが、残念ながら、年金だけで生活が成り立つほど日本の年金制度は充実していない。
そのため、リタイア期までに積み上げた資産を取崩して生活費の足しにすることが不可欠だ。
しかし、資産は有限な資源である。無尽蔵に使えるわけではない。人生の途中で資金が尽きてしまう事態だけは避けなければならない。
リタイア期の資産は毎月いくらまで取崩しても大丈夫なのか?
この記事では、そのガイドライン金額について考えてみたい。
ガイドライン金額=毎月の取崩しの上限金額の目安
人は何歳まで生きるのか?
取崩しのガイドライン金額を求める上で、何歳まで生きるか?が問題となる。それは、哀しいかな、長生きすればするほど、お金はかかるからだ。
人間は、お金なしには生きることができない動物なのだ。
老人ホームの入居費用を検討する記事でも触れたが、何歳まで生きるか?を平均寿命で考えるのは問題がある。
何しろ、平均寿命を超えて長生きする確率は、60%以上もあるのだ(グラフ参照)。
平均寿命より長生きした場合に資産が尽きてしまうのでは、誠に都合が悪い。
ここでは、安全をみて、出生時10万人いた同学年の人数が1%の1,000人にまで減少する年齢で考えることにする。99%の確率範囲までを想定しておけば、たいていのケースはカバーできるはずだ。
簡易生命表によれば、人数が1%となる年齢は、おおよそ以下となる。
男性:100歳
女性:104歳
取崩しのガイドライン金額を計算してみる
何歳まで生きるかが想定できたら、取崩しのガイドライン金額の計算は簡単だ。
その時点での資産額を残り年数×12で割った金額が、毎月の取崩しのガイドライン金額となる。これは、ピザを残り年数で均等に切り分ける作業に似ているかもしれない。
男性と女性とで異なるが、式で表すと以下のように表現できる。
男性:ガイドライン金額=資産額/(100歳-年齢)/12
女性:ガイドライン金額=資産額/(104歳-年齢)/12
当たり前であるが、同じ年齢であれば、資産額が多いほどガイドライン金額は高くなる。また、同じ資産額でも年齢が高くなれば残り年数が減るので、ガイドライン金額は高くなる。
少し、具体例で計算してみよう。
65歳の男性で、資産額が2,000万円の場合は、
ガイドライン金額=2,000万円/(100-65)/12=4万7,619円/月
同じく65歳の男性で、資産が5,000万円だった場合は、
ガイドライン金額=5,000万円/(100-65)/12=11万9,047円/月
また80歳の男性で、資産額が2,000万円の場合は、
ガイドライン金額=2,000万円/(100-80)/12=8万3,333円/月
となる。
資産運用した場合
取崩しのガイドライン金額の計算式は上記のとおりで、単純明快であるが、いくつか注意点がある。
1つは、取崩しながら資産運用をした場合だ。
もし、資産運用をしない場合は、上記式で求めるガイドライン金額は毎年変わらず一定金額となる。死ぬまでずっと同じ金額だ。
しかし、資産運用をしながら取り崩していく場合は、運用成績に応じて資産額が変動するため、そこから計算されるガイドライン金額も毎年変動する。
できることなら、リタイア期にはリスクを犯したくはないが、日本ではゼロ金利政策が解除されたことに伴い、今後インフレが進行していくことが予測されている。
そのため、資産の実質的価値の目減りを避けるためには、資産運用をしながら取り崩していくことが必要不可欠なのだ。
ただし、資産運用する場合は、十分リスクを下げたポートフォリオを組むことが重要だ。
なお、ここで説明した取崩し方法は定口取崩し法と呼ばれる方法であり、別記事でも解説している。
ガイドライン金額は絶対か?
取崩しのガイドライン金額は、絶対ではない。
そのため、必ずしもこの金額を取崩す必要はない。取崩し金額を抑えた方が心理的な安心感は高まる。
一方で、リタイア期のQOL (Quality of Life) を高めるためには、積極的に資金を活用した方がいいのも事実である。財布が固い人は、むしろ、ガイドライン金額に準じた資金を取崩すことを意識した方がいいかもしれない。
逆に、ガイドライン金額を超えた金額を取崩すのも、必ずしもNGではない。ガイドラインは、あくまでもガイドラインに過ぎず、急な入院時など必要とあらば躊躇せずに取り崩せばいいのだ。ただし、その場合は資産額の減額に伴いガイドライン金額も減額してしまうことを覚悟しなければならない。
ガイドライン金額は、どれだけ資産を取崩しても大丈夫かの現時点における目安に過ぎないので、そこまで絶対的な基準とは捉えず、臨機応変に対応することも必要なのだ。
資産形成期での活用
取崩しのガイドライン金額の考え方は、リタイア期だけでなく、資産形成期にも応用できる。
例えば、40歳時点で資産額が1,000万円だった場合、残り年数は60年もあるが、ガイドライン金額を計算することはできる。
ガイドライン金額=1,000万円/(100-40)/12=1万3,888円/月
このガイドライン金額を毎年計算して推移をモニターするのだ。資産額が増えた時はもちろんのこと、何もしなくても分母は1年毎に小さくなるため、ガイドライン金額も成長していくだろう。
ガイドライン金額を意識することで、自分の資産形成が今どのステージまで到達しているかを客観的に測ることができるようになる。
この尺度は、近頃流行りのFIREの達成時期の目安としても使えるかもしれない。
※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
また本記事は、特定の商品、サービス、手法を推奨しているわけではありません。特定の個人、団体を誹謗中傷する意図もありません。
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お金の教科書
もっと詳しく知りたい方は、拙著『資産運用の新常識』を参照ください。
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