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【映画】さよなら室井慎次『敗れざる者』『生き続ける者』

『映画 室井慎次 敗れざる者』『映画 室井慎次 生き続ける者』を鑑賞した。

※ネタバレにご注意ください。 #ネタバレ


踊る大捜査線の世界

『踊る大走査線』は、1997年放送開始のフジテレビの刑事ドラマだ。

舞台はお台場で、奇しくも1997年はフジテレビ本社屋ビルがお台場に移転した年でもある。1995年に就任した青島幸男都知事が税金の無駄遣いであるとして世界都市博覧会を中止した結果、空地だらけでガラーンとした埋め立て地にフジテレビの奇抜な建物だけが異様に目立っていた。

当時は、「フジテレビは都心を離れて何でそんな僻地に移転しちゃったの?」と同情にも似た心持ちで眺めていたが、そんな空気を吹き払うような役割のドラマとして、『踊る大走査線』は誕生したのだった(個人の感想です)。

主人公の青島刑事の名前は、もちろん当時の都知事の名前から拝借したものと思われる。

後にドラマの代名詞ともなる「レインボーブリッジ封鎖できません」のセリフで有名なレインボーブリッジは、お台場と都心とを結ぶ重要なライフラインでもあった。

映画のヒットと共に、これらの地名は全国に知れ渡ることとなり、その宣伝効果は抜群であった。

ちなみに、フジテレビ最寄りのりんかい線の東京テレポート駅の発車メロディには今でも『踊る大走査線』のテーマ曲が使われている。

青島刑事の勤める警視庁の湾岸署は当初ドラマの中だけの架空の存在であったが、後に同じ名前を冠した実在の警察署が設置されている。これも『踊る大走査線』シリーズへのリスペクトによるものと考えられる(個人の感想です)。

ドラマでは、織田裕二演じる青島俊作など現場の刑事たちと、警視庁や警察庁のキャリア官僚たちとの軋轢が色濃く描かれている。

それを象徴するのが「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!」の有名なセリフだ。

『踊る大走査線』は、犯人との対峙だけではなく、警察組織の中の矛盾にも着目した点で他の刑事ドラマとは一線を画していた。

そして、そのキャリア官僚を代表する形で、凶悪事件が発生するたびに本店(警視庁のこと)からたびたび派遣されてくるのが柳葉敏郎演じる管理官・室井慎次だ。

湾岸署に捜査本部が設置され、本店の捜査員と所轄の捜査員が合同で殺人事件の捜査にあたる。その指揮を管理官・室井慎次が執るのだ。

しかし、本店上層部のエリートの論理で、捜査は優秀な本店の捜査員のみでおこない、所轄の捜査員には一晩中寝ずに街中を警戒しろとか雑用ばかり与えられる始末であった。

現場を知っているのは所轄の捜査員のはずなのに…。苛立ちを募らせる青島室井が衝突する。

武器を持った犯人の捜索なのに、所轄の捜査員には拳銃の携帯も許可されない。本店上層部のキャリア組にとって、所轄の捜査員は使い捨ての駒に過ぎない。負傷したら補充すればいいのだ。

そして、本店の上層部からの無謀な指示で所轄の捜査員の血がたびたび流れる。

室井は、現場を知っている所轄の捜査員と共に捜査をおこないたいが、キャリア官僚という立場がそれを許してくれない。本店の上層部からの指示には従う必要があるのだ。

もし、自分の理想を追求したいなら、もっと偉くなる必要がある。偉くなって「捜査から政治を排除して所轄と本庁の壁を取り払って、捜査員全員が信じたことをできるようにする」それが室井の目標であった。

そんな室井青島が交わした約束が、「あんたは上へ行け、俺は現場で頑張る」という青島の言葉だった。

この約束は、ドラマの骨組みを形作る重要なテーマとなる。

『踊る大走査線』には、そのようなシリアスが底流に流れていながらも、表面上はおチャラけたキャラが次々に登場し、笑い満載でドラマを盛り上げていく。

徹底したお笑いとシリアスの二面性が、よりドラマの魅力を深めていたのかもしれない。

ヒロインは深津絵里が演じる恩田すみれで、可愛らしさと勝気を併せ持つ素敵な女性警察官である。青島とは結ばれそうで結ばれなかった。

故・いかりや長介が演じていた和久さんもいい味だしていた。ユースケ・サンタマリア真下は最初いじられキャラだったが、キャリア組のため最後は湾岸署の署長にまで出世した。水野美紀雪乃さんも可愛かった。

徹底して自己中で保身しか考えてなくて、まるで仕事をしていない署長・副所長・刑事課長のスリーアミーゴスも楽し気に湾岸署を盛り上げていた。

キャリア組では筧利夫演じる新城や、真矢ミキ演じる沖田管理官としてたびたび登場した。二人とも最初は室井のライバルか敵役だったが、後に室井のよき理解者となり上層部から排除されそうになる室井をたびたび救っている。

スペシャルドラマやスピンオフ、映画が多く作られたため、犯人役でも多くの魅力的なキャラが存在した。有名俳優が無名時代にチョイ役で出演していた例も多い。

映画としては、1998年に『踊る大捜査線 THE MOVIE』、2003年に『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』が公開された。

特に、『レインボーブリッジを封鎖せよ!』は、観客動員数1260万人、興行収入173.5億円と大ヒットを飛ばし、実写邦画歴代興行収入第1位の座を現在も保ち続けている。

確かに、今見ても完成度は高い。

その後、勢いをかって2005年にスピンオフ映画、『交渉人 真下正義』『容疑者 室井慎次』が作られそれなりにヒットしたが、そこには織田裕二演じる青島俊作の姿は無かった。

当時、織田裕二柳葉敏郎の確執が噂され共演NGになっているのではと思われたが、真相は闇の中だ。

ドラマの厚みを増す存在でいい味を出していた和久さんを演じるいかりや長介が2004年に死去しており、織田裕二の不在は、その影響だったのかもしれない。

『踊る大走査線』の世界は終わりを告げてしまったのかと諦めていたら、2010年『踊る大捜査線 THE MOVIE3 ヤツらを解放せよ!』、2012年『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』が相次いで公開されたのだ。

ファンは歓喜したが、正直、往年の勢いは失われていて、これで本当に終わりなんだなと感じていた。

それは奇しくも、フジテレビの視聴率全盛時代の終わりとまるで歩調を合わせるようなできごとであった。

しかし驚くことに、それから12年後の今年、『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』の二部作が公開されたのだ。


映画の感想

いろんな報道をみると、近年凋落の著しいフジテレビが、あの夢をもう一度と願い企画したようだ。当初はスペシャルドラマとして考えて脚本を用意していて途中から映画に変更になったため、尺が長くなり二部構成になったとのことだ。

鑑賞後の思いとしては、一本にまとめた方がよかったかもしれない。

舞台は秋田の山深い村。警察を早期退職した室井は、故郷の秋田で一介の民間人として自給自足に近い暮らしをしていた。

警察組織の権力争いに敗れ、偉くなって警察を変えるという青島との約束を果たせぬまま引退を余儀なくさせられてしまったのだ。

その心残りの償いとして、事件の被害者の子供や加害者の子供を預かり一緒に暮らしていた。

家の傍らで他殺死体が発見されたり、かつて湾岸署を占拠したサイコパスの殺人鬼・日向真奈美(演・小泉今日子)の娘が現れて問題行動を起こしたりもするが、過去のシリーズのような派手な展開は一切ない。

室井慎次という男の人となり、預かっている子供たちとの生活が丁寧に描かれているのだ。

何かの記事で柳葉敏郎が「これは踊る大捜査線ではない」と発言していたが、その言葉のとおりだった。

踊る大捜査線と同じ世界線での物語であるが、印象が全く異なる映画だ。

子供と別れるシーンでは、思わず涙ぐんでしまった。最近涙もろくなって困る。

室井慎次の口数の少ないキャラクター設定もあるが、終始穏やかで、悪く言えば盛り上がらないシーンが続く。

唯一おチャラけたキャラクターとしては、室井信者の交番の巡査役だけが頑張っていた。

そのため、踊る大捜査線をあまり知らない人が観ても面白くないかもしれない。

また、踊る大捜査線を後から知って、その世界観を期待して観に来た人は肩透かしを食らうだろう。

この映画は、かつてリアルタイムで踊る大捜査線を楽しんだ人向けに作られた映画なのだと思う。あの室井慎次は引退した後にどのような暮らしをしているのかに興味を持てた人にだけ受ける映画だろう。

共演は叶わなかったが、最後のワンシーンだけ姿を見せたトレードマークの濃緑のコートを羽織った男の姿は、何を暗示しているのだろうか?

単に、全てを終えた室井慎次・柳葉敏郎に「お疲れ様」を言いに来ただけなのか?それとも続編の予告なのか?

どっちなのだろうか?

踊る大捜査線の世界がまだ続いても、続かなくても、室井慎次の記憶は、自分の中で永遠に生き続けることだろう。


※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
また本記事は、特定の商品、サービス、手法を推奨しているわけではありません。特定の個人、団体を誹謗中傷する意図もありません。
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