駅前と駅周辺エリアの価値を高めるー三郷駅前まち育てプロジェクト(2021→23)
はじめに
近年、駅前再整備を巡り、車中心から人中心への転換が求められており、例えば国交相からも「駅まち空間(2021)」といった、駅とその周辺地区連動性、一体性を持ったまち育ての重要性が指摘されています。
こうした「まちとの一体性を目指した駅前再開発事業」の例として、岡崎まち育てセンター・りた(筆者は創業者であり、現在は理事)が携わってきた「三郷駅前まち育てプロジェクト(尾張旭市)(以下、三郷PJ)」があります。三郷PJは、三郷駅前再開発を基点として始まった市民参加事業です。
三郷PJは「日本全国どこにでもあるような駅前ではなく、我が町(三郷)に相応しい駅前のあり方を考えるべき」という地元の熱い思いから始まりました。こうしたビジョンを実現するためには、再開発の地権者らを中心とした再開発組合の方々の思いにとどまらず、駅前再開発に関心を寄せる市民の思いに耳を傾けるための開かれた議論の場(ワークショップ)が必要となり、以下に示す経緯を経て、りたも参画することになりました(2021)。様々な経過を経て今「35フレンズ(三郷駅周辺のさんごう、を数字の35に変換しています)」と呼ばれる活力あふれる市民(約30名)の輪が躍動しています。以下、三郷PJの経験を概説します。
対象地区の説明
三郷PJの起点となっている、三郷駅前再開発事業を確認します。三郷駅は尾張旭市(人口約8万)の商業的な中心地で、その周辺にはスーパーが集積する等、住民の買い物活動に欠かせないエリアとなっています。敷地規模は、南北約100m、東西約120m、約1.3haです。2009年に駅前再開発の検討が始まり、2019年に三郷駅前地区市街地再開発準備組合が発足し、2023年に再開発組合が正式発足する、といった経過をたどりました。2027年に再開発ビルが完成する予定です。 三郷駅は名鉄瀬戸線沿線の駅で、名古屋市内まで20分程度で到着する等、利便性が高いです。
関係性の整理
駅前再開発を巡っては、様々な主体が関わってきます。その全体像と市民参加事業の関係性を説明します。2019年から、再開発準備組合が中心となって各種の議論を尽くしてきましたが、「日本のどこにでもあるような駅前」以上のイメージが湧いてこなかったため、再開発の最大の地権者でもある尾張旭市役所が主導して、市民に開かれた議論の場を計画実施することを構想しました。
市役所は、都市計画分野の委員会で委員長を務めている水津功教授(愛知県立芸術大学、ランドスケープ)に相談をもちかけ、水津教授からのお声掛けで、りたが三郷PJに関わることになりました(りたの他、カチノデというデザイン会社も参画しており、総合して「芸大チーム」と称しています)。 再開発組合の事務局は、RIAという再開発コンサルが担当しており、ここが地権者の皆さんの思いを組んで再開発事業を推進しています。
一方で、水津教授率いる「芸大チーム」は、三郷駅前まち育てプロジェクトの企画運営を進めており、ここでは「再開発事業の敷地内にとどまらず、敷地の内と外を一体的にとらえた区域を魅力的なエリアに育んでいくこと」「そのエリアを魅力的なものにする市民の輪・コミュニティ(現・35フレンズ)を育んでいくこと」を目指しています。
注意したこと、工夫したこと
過去2か年+αの取り組みについては「三郷駅前まち育て特設ページ(https://35project.com )」をご覧いただくとして、ここでは、市民参加を進める上で注意してきたことや特徴について説明します。
2021(構想段階への市民参加)
市役所と芸大チームで事業コンセプトを検討する中で、駅前はその都市の顔であり、かつ、そう簡単に更新される場所でもないため「30年、40年先にも誇れる駅前になる、尾張旭市の持続可能性を高める拠点施設としての駅前になる」ことを方針としました。このため、①(半分ダジャレですが)35歳くらいの尾張旭市民の共感を呼ぶ構想や計画、活動とすること(=ワークショップ開催前に、30代の市民10数名にヒアリングを実施)、②30年先の社会の変化にも対応できる構想とすること(=社会の変化に関するミニレクチャーとあわせてワークショップを開催)、③「三郷ならではの、三郷の個性、特徴」を重視すること(=三郷ライフを存分に語り合い、漫画化)を重視しました。
「森林公園をもっと活かす」「情報センターからうまれる繋がり(駅前で人がつながる)」「人があんまり集まりすぎない(駅西側の道路渋滞がひどいので、大型イベントは控えめにしてコンスタントに人が寄り合う場とする)」等、その後の取り組みの柱となるキーワードも抽出されました。
2022(基本計画段階への市民参加)
過去の再開発準備組合での議論を踏まえ、再開発事業の骨格として、敷地西側にA街区(商業施設や公共施設+タワーマンション)、敷地北東にB街区(駐車場)、敷地南東にC街区(商業施設ほか)が建物として整備され、これらに取り囲まれる形で、駅前広場(ロータリー等)を整備する計画です。
こうした骨格を前提とした上で、敷地内に導入する公共施設の機能や、共用空間(路や広場)といった公共空間のあり方について、市民意見を反映するためのワークショップ(デザインゲーム等)を開催しました(市民の利用方法と空間イメージをつなぐ17のデザインランゲージも作成)。
中でも、計画敷地の「三郷駅は、電車が間近で見られる」といった特徴を踏まえ、再開発施設の中に、子どもが電車を間近で見られて、親も近くでくつろぐことができる空間「(仮称)電車パーク」が立案され、これを仮設的に再現する社会実験を開催しました(線路に隣接する駐車場を活用)。
2023(基本設計段階への市民参加)
年度冒頭のキックオフミーティングでは、同じような関心を持つ市民同士で集まってもらい「分科会」を設置しました。2023年7月が、基本設計への市民意見の反映のタイミングとして重要であったため、分科会単位で検討結果をとりまとめ、再開発組合の理事の皆さんに思いをぶつける場をつくりました(市民ワークショップに参加いただいている理事もいます)。「こんな場所を作りたい、自分も関わりたい」という思いが形になった瞬間でした。
そうした市民アイディアをベースとして、今年度の社会実験に相応しいコンテンツを抽出し、社会実験「未来の三郷駅前を体験しよう!」を開催しました(2023.11)。ICHIBAを通じて人と人がつながる「お福分けマルシェ(本や服のおすそ分け)」、遊びながら思いを形にする「未来の三郷駅をレゴブロックで制作」「未来の暮らしを物語化」、駅のグリーン化を進める「森のかけらづくり(苗づくり、展示、工作)」の他、食育をイメージした五平餅づくりや防災CAMPも実施されました。今年度、会場として、駅にほど近いイトーヨーカドーのエントランス広場を全面的に活用させていただいたことも、今後の駅前まち育てに向けた弾みとなりました。
おわりに
「市民とともに愛される駅前を育てる」べく、各種の取り組みを進めてきました。再開発事業と連動して市民ワークショップを企画運営することは、りたにとって初の試みです。しかし例えば、市民参加による公共施設の計画と運営に関しては、岡崎市図書館交流プラザ・りぶらを巡り、デザインワークショップから市民プロジェクトの立ち上げ、市民サポータークラブの仕組みづくり(2004-2008)の経験があり、重要な手がかりとなっています。
先日開催された社会実験にて「面白そう!私も参加したい!」と35フレンズに登録をしてくれた中学生がいます。りぶらの時も、城北中学校の生徒らがイキイキとワークショップの現場に関わっていてくれたことが思い出されます。そんな「遊ぶようにワクワクしながら、子どもや若者、現役もベテランも混ざり合って進めていく駅前まち育て(りたらしい市民参加)」を引き続き進めていきます。
※1:この原稿は、NPO岡崎まち育てセンター・りたの機関紙に掲載するために書き下ろしたのですが、調子に乗りすぎて分量が多くなったので、本編では圧縮気味の原稿となりました(りた職員らの編集が入って読みやすくなっています)。その元原稿をここではお届けしています。
※2:冒頭の写真は、2022年の社会実験「電車パークを体験しよう」の様子。