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追いつきました  朝ドラ「虎に翼」

 この週末、遅まきながら今期の朝ドラ「虎に翼」(2024年・NHK)を初回か直近の60回までを視聴した。全放送の約半分きたところでようやっと追いつきましたわ。

 なぜ、今まで観ていなかったかというと、朝ドラは「カムカムエヴリバディ」(2021年)の苦い経験から、しばらく世の評判を眺めてからにしないと後悔するかもと思ったからである。この間、「あぐり」(1997年)の再放送で癒されまくっていたのでそれはそれでよかったのだが、この「虎に翼」の高評価は右肩上がりで衰えしらず。「あぐり」が無事終わったのでそろそろ参入するかと思ってみてみたら、いやあ、面白いなどというものではない。いつのまにか握りこぶしを握って、ときに涙しながら放送分を一気に観た。

 もう一世紀も前に、日本初の女性弁護士で、のちに裁判官となった三淵嘉子さんをモデルとした物語。主人公の佐田寅子(とらこ、ではなくともこ)を演じるのは、気鋭の伊藤沙莉である。

 明治大学(がモデルと聞く)に戦前から「女子部」があったことは知らなかったが、女子学生たちに多くの差別と苦労があったことは想像に難くない。かく言う私も半世紀ほど前に大学の法学部(進学コース)に入学したが、1学年200名のうち女子はわずか13名だった。男子学生たちには異次元の人間でも見るような顔で見られ、今でも忘れもしないが「そこの女 ! それ取って渡せ !」。黙って渡したら「お前、素直なんだなあ・・ハハハ」。家庭でも、高校までも(成績のよい女子は目の敵にされたものの)、こんな暴言を受けたことがなかったのでただただ唖然とした。最高学府に学んでいてもコイツはおよそ相手にすべき教養人ではない。急所蹴りしてやる値さえない輩である。私たちも、少ない女子で必然的に固まり仲良くなった。ドラマの女子5人組が前の席で熱心に授業ノートを取るシーンには、昔の自分たちを思い出し、胸が熱くなった。ドラマで支え合ってきた5人がそれぞれの事情で離脱していき、最後に残った寅子がみんなの分まで頑張ろうとするところ、そしてついに彼女も挫折して、一度仕事を辞めて家に入るところの切なさには、身につまされて涙した女性も多いのではないだろうか。ちなみに私の同期の女子はみな真面目で優秀、大半が公務員となり、無事に定年まで勤めあげたようである。一番ダメだったのが私で、早々に法律学習をドロップアウトしてフラフラとしていたのだが、後に一念発起して大学院で法律を学び直し、民法の改正が多いとグチりながらも教壇に立ち、いまだにメシのタネにしている。全く人生とはわからないものだ。

 最近の回では、仕事に復帰した寅子が家庭裁判所の設立に尽力するところが描かれているが、ここで出てきた久藤頼安判事(沢村一樹)が「殿様判事」と呼ばれているのを観て「エーッ !」と思わず声が出た。ということは、実在された内藤頼博先生のことではないか。新宿御苑のあたりを治めていた内藤家の御当主でありながら大変なエリートの法曹である。なぜ知っているかというと、私の母が家庭裁判所に勤務したときにこわいもの知らずではっきり意見を言ったところ、あとで内藤先生が周囲に「優秀な女性がいるよ」と言ってくださったと伝わってきたという。母はそれを生涯誇りに思っていた。そんな母も寅子同様、私を身ごもって職を辞し、泣く泣く家庭に入った女性のひとりである。また、後に私が大学院で師事した教授は、東京家裁で内藤先生の片腕のようにして働いた方で、一緒に撮った写真を見せてくださり、いかに内藤先生がすばらしい方かを熱く語っていらしたことを思い出す。素敵な方だったと口々に言われたが、なんとセクスィー部長とは・・(笑)。母も師匠も存命ならどう思っただろうか。

 このようにこのドラマにはいろいろとご縁があり、いずれは私の「朝ドラ全話視聴」シリーズの記事に書くことになりそうだ。特に寅子が、キライだと言いながらも否定しきれない「スンッ」については、今から言いたいことが山ほどある。「スンッ」を排するならば、いまだ自己実現できずに満身創痍のよね(土居志央梨)のようになるしかないが、それは現実には難しかろう。まずは最後まで脱落しないで観続けられるよう、これからも視聴者を引っ張ってほしいものである。