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【第1審】教員の自殺と校長の安全配慮義務(令和2年7月1日仙台地裁)
概要
原告らの子である亡Aは、北海道公立学校教員として任命され、稚内高校において定時制課程の英語担当教員として勤務していたが自殺をしたところ、原告らが業務が過重化したこと及び先輩教諭において亡Aに対しパワハラをしたことにより亡Aは精神的に追い詰められて自殺したのであり、校長及び教頭は労働環境を整備するという信義則上の安全配慮義務に違反したと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、亡Aの逸失利益、慰謝料及び遅延損害金の支払いを求めた。
結論
一部認容、一部棄却
要旨
B教諭による業務の押し付けについて,B教諭は同じく庶務・進路指導部の業務を担当していた亡Aに対して,一時期同業務を任せる傾向にあったものの,教頭がB教諭に上記業務を自ら行うよう指導して以降は,B教諭は教頭の上記指導に従っており,上記傾向は一定程度改善したことが認められ,このような経過を踏まえると,B教諭が亡Aに対し過重な業務を押し付けていたものと認めることはできず,また,校長らの指導は被告設置に係る高校における書類作成において必要不可欠な業務に関して行われたものであり,かつその指導内容においても不適切なところはなかったものと認めるのが相当であり,さらにC教諭の行為の違法性について,従来から繰り返されたC教諭による注意が直ちに業務上必要かつ相当な範囲を超えるものとまで立証されたということはできないこと等から,これらの行為が不法行為法上違法になるとまで認めることはできない。
校長らの安全配慮義務違反の成否について,校長らは業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して亡Aの心身の健康を損なうことがないように,C教諭に対し亡Aのうつ状態の原因が教師として生きてゆく自信を喪失させるようなC教諭の度重なる注意にあることを自覚させ,未だ勤務経験2年余りにすぎない亡Aが教師として生きてゆく自信を喪失させないように,亡Aにこれ以上の注意をしないよう自制を促すともに,亡Aの意向を聴取するなどして精神状態に配慮した上で,亡Aの意向に反しない限度で,C教諭が業務において亡Aに接触する機会を減らす措置を講じる義務を負っていたにもかかわらず,これを怠ったものというべきであるから,校長らは,亡Aの心理的負荷等が過度に蓄積してその心身の健康を損なうことがないよう注意する義務に違反したものと認めるのが相当である。
安全配慮義務違反と亡Aの死亡との間の相当因果関係について,校長らが,C教諭に対し,亡Aのうつ状態の原因が教師として生きてゆく自信を喪失させるようなC教諭の度重なる注意にあることを自覚させ,未だ勤務経験2年余りにすぎない亡教員が教師として生きてゆく自信を喪失させないように,亡Aにこれ以上の注意をしないよう自制を促すとともに,亡Aの意向を聴取するなどして精神状態に配慮した上で,亡Aの意向に反しない限度で,C教諭が業務において亡Aに接触する機会を減らす措置を講じる義務を履行していれば,少なくとも亡教員が平成27年7月28日に自殺することはなかったというべきであるから,校長らの安全配慮義務違反と亡Aの自殺との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。
過失相殺について,自殺企図の既往のある患者がレメロンを服用する場合には,自殺念慮又は自殺企図が現れるリスクが指摘されていることからすれば,医師である亡Aの父が,亡Aが過去自殺を2回企図した個別事情を認識していたことを踏まえ,上記リスクを回避するために,亡Aに対し,処方されたレメロンを飲まないように助言した行為には,過失相殺を認めるのは相当でないが,他方,亡Aの自殺の原因は,過去2回自殺を試みた経過等を踏まえると,亡Aの不安を感じやすい上記性格が寄与していたというべきであり,労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものであったと認めるのが相当であるから,自殺は一切の事情を考慮すれば,本件においては6割の素因減額を行うのが相当である。