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日本ヒューレット・パッカード事件④(平成27年5月28日東京地裁)

概要

従業員が職場で嫌がらせを受けた等と主張して欠勤を重ねたため、会社が従業員を諭旨退職処分にしたが、諭旨退職処分が無効であることが平成24年4月27日の最高裁判所の判決により確定したため、従業員が復職を求めたところ、会社が、従業員の心身の不調を理由に従業員の就労申出を拒絶し、従業員に対し、平成25年1月11日付で休職を命じ、平成26年11月14日、休職期間が満了することとなる11月30日付で従業員の退職の手続をとる旨通知したことから、従業員が、会社に対し、

(1)上記休職を命ずる命令の無効確認
(2)労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
(3)会社が従業員の就労を拒絶している期間中労働契約に基づき会社が従業員に対し支払うべき賃金及び賞与並びに遅延損害金の各支払
(4)平成27年2月分以降の賃金及び遅延損害金の支払
(5)平成27年6月以降の賞与及び遅延損害金の支払
(6)不当な就労申出の拒絶及び違法な本件休職命令に係る不法行為に基づく慰謝料及び遅延損害金の支払を求めた。

結論

一部棄却、一部却下

判旨

元従業員については、その精神的な不調の存在故に、本件休職命令の時点において、本件労働契約上、その職種等に限定がないことを考慮しても、会社社内における配置転換により労働契約上の債務の本旨に従った履行の提供をすることができるような職場を見いだすことは困難な状況にあったというべきであり、そうすると、本件休職命令は、本件就業規則第23条第1項第6号の要件(「本件就業規則第100条第6項の健康診断の結果、または客観的な状況から社員の業務外の傷病等の理由により休職が必要であると認められ、会社が休職を命じたとき」)を満たす有効なものであり、また、会社が元従業員に対し、本件休職命令により元従業員に対し療養に専念することを命じたことは、元従業員の債務の履行の受領拒絶には該当しないし、元従業員が、その精神的不調の存在により、労働契約の債務の本旨に従った履行をすることができない状況にあると認められる以上、会社の責に帰すべき事由により元従業員の債務の履行が不能になったものと認めることもできない。

本件休職命令の発令後、その休職期間の満了日である平成26年11月30日までの間、元従業員が復職することができるような状態になっていたかどうかについても検討すると、一般に、妄想性障害は、抗精神病薬を中心とする薬物治療により治療可能とされているが、元従業員が、本件休職命令後、休職期間が満了するまでの間、精神科医による適切な治療を受けていたことを認めるに足りる証拠はなく、そうすると、元従業員が本件諭旨退職処分を受けた後の平成21年7月から平成22年6月までの約1年間、他社において稼働していた事実や、元従業員本人尋問の結果を考慮しても、本件休職命令の原因となった元従業員の妄想性障害がなくなったことが確認され、元従業員が復職可能な状態になったことを認めるに足りないから、本件休職命令の休職期間が満了したことにより、本件就業規則第37条第6号に基づき、元従業員は自然退職し、本件労働契約は終了したことになる。

本件最高裁判決後、会社が元従業員を速やかに復職させず、また、本件休職命令により元従業員の就労を拒否したことをもって、違法な行為ということはできないから、元従業員の請求のうち、不当な就労申出の拒絶及び違法な本件休職命令に係る不法行為に基づく慰謝料等の支払を求める請求も、理由がない。

元従業員の請求のうち、本件休職命令が無効であることの確認を求める請求は、過去の事実の確認を求めるものであって、本件休職命令が無効であることを前提とする現在の権利関係の確認や、当該現在の権利関係に基づく給付請求によるべきであるから、確認の訴えの利益を欠くものである。

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