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Mist
2018年12月14日 21:25
金曜日。わたしのもっとも好きな曜日だ。なぜならあの金色の光に包まれていると、明日のことなど考えなくて済むからだ。仕事を終えた私は錆びれた自転車に跨り、夜の風を切った。冬はなぜこんなに寒いのだ。凍りついてゆく指先が、うらめしそうに嘆いている。高架をくぐり、電車を追いかける。久しぶりに晴れた夜だ。街の灯りが生き生きとうるんでいる。くぐりたかった暖簾の先は、すでに人でいっぱい。私は引き返した。また少し
2018年12月1日 00:15
季節がとたんに逆さに走り出した。大切な菓子箱をひっくり返して宝石が散らばった。このせわしい街に吹く木枯らしが私たちのコートを揺らして、電車は行きつ戻りつ頭上を駆けてゆく。故郷がわだかまって暖炉のように燃え上がり、都会は少しばかり淋しさという言葉を忘れかけていた。鼻をくすぐるスパイスの香り。笑い話の交わされる広いテーブル。あっというまに回った時計の針が、私たちをせき立てた。やがて狭い部屋はハミング