君について
愛する人が、ヘルメットを被り自転車を漕ぐ姿を見たことがない。愛する人が、25mプールをクロールで泳ぎ切るところを見たことがない。愛する人が、給食を食べているところを見たことがない。
たしかに存在したであろう君の姿を、僕の頭の中でその動きをする他人の顔を君にすり替え、補うことでしか感じられない。
君はランドセルの中身を、君なりの決まった順番で詰めていたかもしれないし、学校から家に帰るなりチョコを一粒食べるのが習慣だったかもしれない。僕がこの目で見たいのは、そういったディテールだ。
変わり続ける君を変わらず見ていたいと思う反面、変化の中で君すら忘れ去ってしまったであろう失われた君の姿に憧れを抱いている。どうしようもないことだから、むず痒くて悔しい。こんな風に感じるほどに、君について考えている。
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