6. 大槻香奈作品考2 / 6-1. ピーター・パン と ピーター・パン症候群 【ユクスキュル / 大槻香奈考】
6. 大槻香奈作品考2・・・ゆめしかちゃんと、ずっといいこちゃんたち
ここからは大槻香奈作品のマスコット的存在(しかし掘るほどに深みのある)、ゆめしかちゃんとずっといいこちゃんたちについて考察して参ります。
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6-1. ピーター・パン と ピーター・パン症候群
個人的には、ゆめしかちゃんとずっといいこちゃんには大きな違いがあると感じています。
基本的にベッドの中に居るゆめしかちゃん。彼女は自発的にベッドの中にいることを選んでいます。
「ゆめしか(2014)」
引用元:https://twitter.com/KanaOhtsuki/status/1115843321610625024?s=20
ゆめしかちゃん(立体)
引用元:https://twitter.com/KanaOhtsuki/status/819021481950617604?s=20
ベッドから出て動き出すこともありますがパジャマは着たまま。外の世界へ飛び出した、というよりはあくまでも「ゆめしかちゃんのベッド」が持つフィールドが広がった感覚に近いように思います。この様子から、「眠っていたさ」や「夢の中だけでいい」という、ある意味での強い信念を感じます。笑
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逆にずっといいこちゃんは、よく言えば楽観的、悪い言い方をするならば「からっぽ(なにも考えていない)」であるように思います。そして圧倒的に「個」であるゆめしかちゃんに対して、ずっといいこちゃんは「群」です。
「ずっといい(2012)」
引用元:https://twitter.com/KanaOhtsuki/status/1115843321610625024?s=20
ゆめしかちゃん×ずっといいこちゃんマグカップ
引用元:https://twitter.com/kanaohtsuki/status/1121716556172410881?s=21
よって、双方ともピーター・パン症候群的な色合いを持ちつつも、本来的なピーター・パンに近いのは、ゆめしかちゃんだと考えています。
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少しだけピーター・パンについてお話ししましょう。ネバーランドには迷子の子どもたちが住んでいます。彼らは、子守りがよそ見をしている間に乳母車から落っこちた子どもたちです。その子たちは妖精にお守りをしてもらうのですが、一週間経っても誰も迎えに来ないと、みんな夢の島(ネバーランド)に連れられます。だからこそお母さんに大きな憧れを持つわけです。
しかし、ピーター・パンは生い立ちが全く違います。本文を引用してみましょう(太字はナツメによるものです)。
ピーターは、まだごく小さいころ、おとうさんとおかあさんが、
「この子が大きくなったらどんなになるだろうね。兵隊かな。お役人かな。」
と話し合っているのを聞きました。ピーターは、大きくなるのなんか、いやなこったと思いました。
そこで、おかあさんの知らないあいだに、そっと窓から逃げだして、ケンジントン公園の池の中にある島へ、飛んで帰ったのです。
――『カラー名作 少年少女の文学 ピータ
ー・パン』より
つまり、ピーター・パンだけは自らネバーランドに飛んで【帰った】のです。
ネバーランドにはソロモンというおじいさんが住んでおり、そのおじいさんの言いつけでたくさんの小鳥が島を見張っています。その小鳥の卵からは毎日かわいい雛が生まれて、人間の家へ飛んでいきます。
そこで人間の子どもに【なる】(変化する)ため、生まれたばかりの赤ん坊はみな空を飛ぶことができ、ピーターは勢いよく窓から飛び出してネバーランドに飛んで帰ったというわけです。その後も【人間のピーターの家】に関するエピソードが続くのですが、ここでは省略させて頂きます。
迷子の子どもたちはやはり人間の世界が恋しくなり(元々迷子ですしね)後々ウェンディ―の家に引き取られます。そして学校に通い大人になり就職し、一般社会に馴染んでいきます。
ピーター・パンも一度は【人間の子ども】を経験しているため、母親が恋しくなることもあります。しかし意地を張って忘れようとしたり、ネバーランドの仲間と楽しく過ごすことを考えたりするため、人間界に戻ることは無く、たまに顔を出すだけです。
なので私には、能動的に(意地を張ってでも)夢の中で生きようとするゆめしかちゃんがピーター・パンに、受動的でその時を楽しく生きる(そして周りに流される)ずっといいこちゃんたちが迷子の子どもたちに重なって見えることがあります。
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