7-3. 美術における機能環 【ユクスキュル / 大槻香奈考】
生物たちが環世界の中で同じ対象を違った見方で認識しているように、私たち人間も、誰もが全く同じように知覚・認識することはできません。
だからこそ、「絶対」ではなく「共有できるところ」は何か、という点をそれぞれの心の中で探っていく(感性と悟性を働かせる)ことをカントは提唱しました。これは美術作品においても同じことが言えるのではないでしょうか。
そう考えてみると、全く共有できるところを持たない「自己愛が不健康に作用した作品」は、誰かに向けることを目的とした美術作品としては不完全であるとも言えるように思います。
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『生物から見た世界』本文の図 3 、機能環(p.19)にも示されているように、主体と客体は機能環内にぴったりとはめこまれており、一つの組織立った全体を形成しています。
もし美術の機能環が存在すると仮定するならば、自分にとって美術とはなにか・自分が美術を通して伝えたいこと / 残したいことはなにか、と試行錯誤することは、他者(鑑賞者)との相互作用が大前提であり、それによって作品制作の環が機能していくように思います。
「機能環の図」引用元:生物から見た世界 (岩波文庫) ユクスキュル / クリサート著 本文p.19より
主客縁起的に考えるのであれば「是あるがゆえに彼あり。これ生ずるがゆえに彼生ず。是なければ彼なく、是滅すれば彼滅す。」となります。すなわち作家あれば鑑賞者があり、逆に、鑑賞者がなければ作家はない(もしくは無いも同然な)のです。
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