散文:教科書が消えていく

突然だが、私の夢の一つは、とある作品の続編を、とある作品のイラストレーターの方にご参加いただき、作り上げることだ。
かつて大学生の折、時代はエロゲ全盛期。
私が感銘を受けた、永遠に等しい命を得た、美しき吸血鬼の物語、その続編こそが、私が描きたい物語の一つである。

物語を描くのに、最も適した方法は、さまざまな作劇、ストーリーメイキングの方法があるにせよ、畢竟、

書きたい物語に近い物語を読むことこそが、最も手っ取り早い描くための手段だ。

私の描きたいもの、その最短ルートとして、この世には「かつて」美少女文庫というレーベルがあった。

日本文芸界における、官能小説の雄たるフランス書院が手がけた、二次元イラストを前面に押し出したレーベルである。
このレーベルにおいて顕著なシリーズといえば、、ポップな文体と軽妙で愛らしいキャラクターにより織りなされた、ヒロイン1人の、まさしくエロゲ個別ルートが如きストーリーで編み出された、Myシリーズだろう。
フランス書院という老舗の官能作品出版社から出されたMyシリーズをはじめとして、エロゲ世代に直撃の作品群が並ぶ美少女文庫は、惜しくもそのレーベルを終了し、今は美少女文庫ebooksを残すのみとなった。

かつてシリーズを支えたファンは、一体どこに行ったのか。

その行き先は、おそらくはWeb小説へといったのだろう。
美少女文庫eBooksの文体を見ればその傾向はよくわかる。
詳しくは本意に逸れるので語るべくもないが、読んでみればわかる、というほどに、かつての美少女文庫とは異なる文体が目立つ。

そう、美少女文庫を、ひいては官能小説を愛した人々は、Webに行ってしまった。
描く人も、きっとWebに向かったのだろう。
世の中は電子版が隆盛を見せている。
SDGs的にも、紙の本はどんどん衰退するだろう。

さて、ここまで読んでくださった諸兄に聞こう。

最近本屋に行ったのはいつだろうか。

より詳しくいうのなら、その本屋で、フランス書院を見かけただろうか?

このノートで訴えたい危機感、それは、

物理的な本としてのフランス書院が、「教科書」たる
かの存在が、失われつつあるということだ。

そんなバカな、という諸兄もいるだろう。
フランス書院は、こと物理本においては日本で最もどこにでもあるレーベルの一つである。
「かつては」空港の売店や主要特急駅のKIOSKの書籍コーナーの一角は、黒と黄色の独特な色合いによって飾られていた。

しかし、今は違う。

KIOSK、売店そのものがないのだ

COVID-19の影響というが、5類に変化し(表面上の)制限を撤廃された今でも、これらの売店が復活することはない。
失われた労働力を確保することに苦慮し、失われたノウハウを渇望しても、もう失われてしまった以上、得ることができないのだろう。

ならば本屋にあるはずだ。
そう思う諸兄らに聞こう。

本屋、近くにあるだろうか?

気がつけば、市内に書店が失われた地域だってあるだろう。
古くからの書店どころか、TSUTAYAですら失われつつある。

書店 閉店 と調べれば、くまざわ書店、TSUTAYA、ブックエクスプレス、三省堂と大手の書店の名が並び、いわんや地元の個人書店となれば目も当てられないほどだ。

この状況下で、勢いの良い書店のほとんどは、フランス書院をおいていない。

ジュンク堂にはフランス書院の黒本はない。

残っているのは、美少女文庫の数少ない在庫本だけだ。

古本屋ならば、と思うだろう。BookOffに行けばあるだろう。
しかし、ご存知だろうか。
BookOffの主力製品は、

エロ本である。

バキバキ童貞で有名なお方は、Bookoff店長時代、レジ横にエロ本を配置することで日本一の売り上げになったという逸話があるが、Book Offで見てみればわかる。
価格傾斜による需要喚起を、BookOffは行う。売れ残れば、百円本になる。

フランス書院、美少女文庫の百円本はほぼないのだ。

それだけ、需要が高い。

いつの日か、フランス書院のあの黒本が、プレミアム価格になる日も近い。
いいや、実際のところ、すでにそうなっているのだ。

上記の通り、物理的なフランス書院の本は、失われつつある。
何が困るというのか。
いいや、困る。

エロは、この世の正義が叩くにはあまりにも良いサンドバックである。
故に、いつ消えてもおかしくないからだ。

フランス書院の流行のジャンルが、当代の経済状況を反映するという冗談のような逸話もある。しかし、それらを支えるような「大人」ですら楽しむ余裕を失い、大いなる「怒りの日」に囚われた時、簡単にエロはサンドバックになってしまう。

フランス書院については、積極的に電子版としてかつての書籍をアマゾンKindleに上梓しているが、

サンドバック化された時に、残っている保証はない。

Webにいけば、官能小説は読めるじゃないか。
お前が冒頭にいったように、官能小説はWebに行っただろう。
という諸兄には、是非とも以下の記事をおすすめしよう。

この記事の中に、一つ大きな示唆がある。

Webにいけば、官能小説は読める。しかし、多くの読者が求めるポイントを踏まえた官能小説という「パッケージ」は、フランス書院をはじめとした専科出版にしかない。

これらの専科出版の物理本は、これから描こうとする人々、これから親しもうとする人々にとっては、教科書にもなりうる貴重な書籍だと、私は思う。

だからこそ、改めて尋ねよう。

最近本屋に行ったのはいつだろうか。

振り向いたら、もうなくなるかもしれないよ。
特に、あの香しい、黒い本は。

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