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そのライターは、もういない。

わたしの住んでいる都市まちの図書館が昨年、移転リニューアル開館をした。
その図書館のパンフにはこう記されている。
「直感的に伝わりやすいテーマで、思いもよらない本との出会いをつくります」
従来の十進分類表とは異なり、「ものづくり」「芸術に触れる」などテーマ別に書籍が分けられている構造になっている。
そんな、楽しい雰囲気の図書館にわたしは2か月前から「通って」いる。
貸出期間の2週間がたったら返却をし、その日にまた数冊借りる。
本当は何時間でも居たいのだが街の中心地にあり駐車代がかかるので、大体1時間くらいの滞在時間だ。

先月そこで、思いもよらない本との出会いがあった。
タイトルは「1980年の松田聖子」(2020年 徳間書店)。
1980年の松田聖子――。 歌手デビュー、「青い珊瑚礁」の大ヒット、バトンを託したのか、同年の山口百恵の引退。
当時小学5年生のわたしにとって、それは何もかも鮮烈だった。
アイドルとはこうして誕生していくものなのか、そして、これがスーパーアイドルというものなのか。
その年の彼女に興味があった。その書を手に取らない理由はなかった。
ジャンルは「芸能ノンフィクション」。果たしてどんな内容か、その上、職業柄(副業ライターではあるが)気になる、どんな文体なのか。

すごい。
松田聖子という大きな磁力に引き寄せられた当時の関係者、同時代のアイドル、番組の共演者、曲の提供者、ブレーン等への豊富な取材からくる証言とそこに深い洞察を込めた文章に、ぐいぐい引き込まれていった。
何より、わたしに心地いい、文体のメロディーであった。
わたしは、いい文章、悪い文章というものはないと思っている。
人それぞれに、聴きたくなる推しのアーティストがいるように、その文章はわたしにとって読みたくなる文であった。

作者は、石田伸也といった。初めて聞く名前だった。
本のそでに、作者の紹介がされていた。
1961年(昭和36年)10月1日生まれ。主に芸能ノンフィクションを執筆。主な著書は「ちあきなおみに会いたい。」「素顔の健さん」「甲斐バンド40周年 嵐の季節」「田宮二郎の真相」など。
もっと読んでみたい。
近著はないだろうか。定期的に寄稿する、主戦場となっている雑誌はないだ
ろうか、調べてみる。

検索をしてみた。
先頭に出てきたのは本人のXアカウント――。

【訃報】とあった。
ご家族が、令和4年2月6日午前0時5分、脳幹出血のため急逝したことを知らせていた。享年60歳。
同じ月の1日には「1985年の尾崎豊」に関するインタビューが地元熊本の地方紙に載ることへの感謝のポスト(ツイート)が本人からされていた。

もう、この世にはいなかった。
もう、彼の新たな文章を読むことができない。
残念であり、そして、悲しい。

「何かを読む」ことにおいて、こういうことは初めての経験だった。
文学作品やロングセラーを読まず、何かを読むとしたら雑誌が多いわたしにとって、好きな作家、ライターは「最新作が出る」ものだった。
それが当たり前ではないことを痛感させられた。
図書館の旧著で初めて出会うと、こういうことがあるのだなと。

主戦場は「週刊アサヒ芸能」だったようだ。
俗な雑誌で意外な名文と出会う驚き、喜びを知っている。
そこで初めて出会ったらまた違った感動を得たのかもしれない。

「漂泊の40年ー1989年の松田優作」というのが、彼の死後1か月たった2022年3月の発行として、HMV&BOOKS onlineでのみ出てくる。
ただ、画像はない。刊行予定ということだったのだろうか。

「もし」を想像してもしょうがないのだが、もしご存命なら「1989年のプリンセスプリンセス」「1982年の中森明菜」なんていうのも出たのだろうか。
本当に勝手な想像だが。

わたしにできるのは、遺された彼の文により多く触れることだ。
「1985年の尾崎豊」。
1985年、デビュー年ではない。「卒業」が大ヒットした年だ。
どんな内容、どんな文の旋律なのだろう。
まずは書店へ・・・。








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