【読書の記録(感想①)】笑わない数学者/森博嗣


12年前のオリオン像の消失について、片山家長女の視点から、話は始まる。お屋敷前にあるオリオン像(推定5m、10トン)が目の前から消えた謎について触れられおり、2節になって、現在に戻り、犀川先生と西之園さんが、待ち合わせをして、舞台の三ツ星館に向かうという導入だった。
クリスマスパーティーということだが、不吉でしかない。
実際、“「世にも不思議な物語っていう映画で、こんな霧のシーンがありましたね」“と犀川先生が三ツ星館に向かう道中で、濃霧に包まれている様子を話していたが、まさにこれから、異世界に入ることを示しているのだろう。

犀川先生が、オリオン像の消失について、知ったのも、この移動中のことで、この際は、信じていない様子だったが、お屋敷に到着し、館内に入るまでの間に、例のオリオン像があり、これを観察する。不思議な仕掛けもない様子だった。オリオン像を消したのは、天才数学者の天王寺翔蔵博士。

その後、博士は改めて、12年ぶりにオリオン像を消失させてみせ、それが引き金になったかのように、二人の死体が発見されるという事件が起きた。

ここまで、ざっくりと読み進めた後に、
・改めて、三ツ星館のマップを見直したが、重要なオリオン像の位置はマップには記載されていない。
・プラネタリウムの出入口には東西南北の表示があり、度々、登場人物の出入りの際には、方角を意識されせるような描写がされていた
・博士の“「見ているものが、いつも真実であるとは限らない。よいか、、、、、一つだけ、真実を教えよう。今、正面ゲートにオリオン像はない。これは事実だ」“

以上のような描写で、およそ、オリオン像が消えたトリックは、自分の中でも想像できていた。しかし、僕の思考はそこまでで、関連性を持って考えられずに、二人の死体についての謎が解けなかった。とはいえ、前作、前前作に比べると、シンプルで理解しやすくなっており、身構えて読んだ分だけ、一瞬、物足りなさを感じてしまっていた。

しかしながら、第10章5節からの展開にて、退屈さに似た気持ちは一気になくなった。オリオン像の消失や、二人の殺害についての物理的なトリックではなく、どのようにして、この事件が起こったかについて、人間関係・バックグラウンドが紐解かれ始めたからである。(不覚にも、物理的なトリックが分かっただけで、満足しそうになっていた自分が恥ずかしい。)
刑事の荻原が、犯人は遺産目的が動機ではといったが、それも間違いではなかった。(犯人を二人殺害した者と定義した場合)

以下、明かされた人物たちのバックグラウンドを書き起こしてみたが、そのすべてに、博士が関わっている。

○犯人について
・三ツ星館をふさわしくない人物に渡したくなかった。
・ふさわしくない人物とは、天王寺宗太郎の妻である律子と子供の俊一のことで、両名を殺害する。
・天王寺宗太郎については、父親のように慕っていた。自殺した宗太郎の遺体を運び出すが、その理由の一端は妻にあることも知っていた。(博士から遺体の運び出しを依頼されており、聡明な犯人なら、察することも容易だろう)
・葬式までして、死んだことにされている片山基生は生きていることを知っていた。(博士から知らされる)。基生の存在を犯人として利用しようとした。
・博士の子供である。

○宗太郎について
・12年前に交通事故で自殺したとされていた。しかし、実際は生きており、博士の地下空間で過ごしながら、遺作となる「睡余の思慕」を発表。物語上でも、老人と少年が一緒に生活をする中の、心の葛藤を描く。遺作という点でマスコミも取り上げたものの、宗太郎ファンには、評価されてはいなかった。
・自分の流行作家としての立場や妻との生活に苦悩しノイローゼとなり自殺。
※妻がいながら、宗太郎は使用人の君枝と愛し合っており、また血の繋がっていない亮子のことも愛していたという。
※宗太郎と基生は双子で、博士は宗太郎を養子として迎え入れた。

○鈴木君枝について
・宗太郎の愛人で、ノイローゼになるまで追い込んだ宗太郎の妻の律子を恨み、また妹の亮子のことも恨む。
・博士から、二人殺害した犯人について聞かされていた。

○片山基生について:
・基生は、自分の地位や名声を捨てるために、葬式をでっち上げて、社会から死んだこととした。その後、宗太郎が自殺したぐらいに、博士の地下空間に来て余生を過ごす。しかし、がんに蝕まれて死場所を探しに、地下空間を出ていく。
・基生の作品集には、この三ツ星館に関する紹介があるものの博士の地下空間に関する平面図や断面図は描写されていない。

長くなったため、感想②に続きます。

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