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樹木医の推し本。テッパン樹木図鑑編。
筆者経歴
緑化コンサル 兼 樹木医。園芸・造園系の大学で学び、今は行政やインフラ企業の緑化を支援をする。/ 皇居や御用地といった大規模な樹林で樹種の判別業務に従事し、様々な図鑑を使った。その経験から記事を書くことに。ちなみに初めて樹木図鑑を購入したのは7歳の時。
この記事が有益な方
・樹木の種類を判別できるようになりたい方
・手っ取り早く図鑑選びの正解が知りたい学生の方
・日本産の樹木を網羅した信用できる図鑑を探している植物・緑化業界の方
この記事の目的
皆さんは日本に自生する樹木の種類をどのくらい知っていますか?判別できますか? 仕事でみどりに関わっている方々でも、意外と自信がないのではないでしょうか。AIが活躍する現在でも、樹木の種類を正確に判別するためには良質な図鑑が欠かせません。筆者は、何週間もの間、ひたすら樹種を判別する業務を行ったことがあり、何種類もの図鑑を使いました。そのうちに自然とコレがイイという図鑑が見つかったものです。そこで今回は筆者の経験をもとに、使用目的ごとに最適なお薦めの樹木図鑑を紹介したいと思います。
間違いない。著者が信頼できる。または実際の業務で使用実績があるものを紹介していますので、仕事や学業の頼もしい相棒になる事まちがいなしです。悩んであれこれ購入する必要はありません。
最初に結論から言うと、メジャーな樹種を判別(同定)できればいい方は1番の本一択。これは新品で手に入ります。生物としての植物や細部の形態に興味がある人は断然5番の本がお薦めです。これは中古で流通しています。植物図鑑の販売サイクルは短いため、廃版になったものは中古品を文中のリンクから購入するか図書館で閲覧するなどしてみてください。
図鑑紹介
■屋外で何の木か判別したい
1.葉で見わける樹木 増補改訂版
調べ易い、軽い、見やすい。屋外で樹木を判別する場合の決定版。都市や郊外にあり人が植えそうな樹木はだいたい網羅。葉からどのように樹種を判別すればよいか、使い方が冒頭に分かり易く記載されており、初心者にもお薦め。筆者が通った大学の指定教材だったし、樹林の調査業務でも使ったが品質は間違いない。名前の由来や伝統的な利用法などのまめ知識も面白い。326種を掲載。
2.山溪ハンディ図鑑 14 増補改訂 樹木の葉
1300種類と多くの樹種が掲載されているため、分厚く屋外では使いずらいが、上記の図鑑で判らない場合はこの本が頼り。最後の砦的なポジション。調査業務の経験では、この本で判らないものは博物館の研究者に聞いていた。
■落葉期に何の木か判別したい
3.樹皮ハンディ図鑑
落葉期の樹種判別は樹皮で見当をつけることも多い。しかし、樹皮は樹齢によって大きく見た目が変わるのが悩みどころ。この本は、若木、成木、老木の樹皮の様子が載っているので非常に助かる。300種を掲載。
こちらも廃版。中古なら入手可能。
4.樹皮と冬芽: 四季を通じて樹木を観察する 431種
手元で冬芽が見えるのであればこの本も選択肢になる。ただ、冬芽だけで樹種レベルまで判別することは非常に難しい。樹皮と併せて判ればよいが、それでだめだと目を皿のようにして草むらから落ち葉を探すことになる。
こちらも廃版。中古なら入手可能。
■机の上でじっくり特徴を調べたい
5.原色日本植物図鑑 木本編1・2
日本に自生する樹木は全種類が網羅されているのではないか。生物的な観点から、分布、生態、細部の形態などを網羅的に記載。ザ図鑑の決定版。筆者が通っていた大学の図書館にも本書が2セットがあったので、学術的にもお墨付きと言ってよいだろう。科や属レベルの見当がついていれば、形態的な特徴から検索して樹種の判別も可能だが、細部の形態に関する専門用語が分かっていないと難しい。ちなみに、図鑑によって樹高の記載には差があるので、筆者はこの図鑑の内容で統一するようにしている。
流通の中心は中古。出版社のHPには記載があるので新品の入手も可能かもしれない。
6.庭木と緑化樹1・2
人が庭や公園に植える緑化植物に特化した図鑑の決定版。樹形、庭や公園での定番の植栽方法、植栽可能地域、環境耐性、繁殖法など、造園に利用する場合の役立ち情報を記載。現在の千葉大学 園芸学部 植栽研に昔いた先生方が書いた本。検索機能は無いので判別用ではないが、緑化・造園的観点ではよくまとまっていて他に替え難い本。写真に時代を感じる。
こちらは廃版。中古なら入手可能。
おまけ
■木の形が知りたい
7.身近な樹木ポケット図鑑
400種がコンパクトに掲載されている樹木図鑑。これだけの樹種について、樹形がシルエットで掲載されているのは他で見かけず、貴重でありがたい。検索機能はないが、ちょっと植物を知っている人がアウトドアのついでにもっていくと良いかも。
こちらも廃版。中古なら入手可能。解説文は簡易な内容にとどまっているが、樹形のシルエットは樹木の姿をイメージしやすいので大変気に入っている。同じような図鑑が新しく出て欲しいという期待を込めて記載。
今回は樹種の判別に使える図鑑類を中心に、決定版と思う図鑑を紹介しました。冒頭に述べた通り、とりあえずメジャーな樹種を判別(同定)できればいい方は1.の本一択です。子供から大人まで使える良書です。山林の樹木や寒冷地亜熱帯の樹種も網羅したいのであれば2.が良いですが、お子さんは1.の本で樹種の検索に慣れてからがお勧めです。
近年は出版のサイクルが早いようで10年経たなくても廃版になってしまいます。そしてデジタル版がないことも。なので、まだキレイな中古品が流通しているうちに入手しておくのが良いです。特に樹皮や冬芽に興味があるマニアックな方であれば、3.4.の本を早めに入手することをお勧めします。
近年は、5.6.の様な仕事で使えるザ図鑑といった良書が見当たらないので、これらは貴重なレガシーというべき存在です。近年の出版物は一般向けで、掲載樹種も少なく、専門家や学生には物足りない傾向にあると思います。生きた樹木とがっつり関わろうという方々、例えば造園、園芸、樹木医、ネイチャーガイドなどの方々であれば、5.の本は中古でも良いので入手しておきたいところ。なお、これらは図鑑なので樹種ごとの剪定や管理方法はほとんど記載がありません。これらも併せて知りたい方には後日に別の図鑑を紹介する予定です。
古い図鑑を利用する際には注意点があります。植物の科や属の分類方法にはいくつかの方法がありますが、2000年頃から、主流の方法が形の外見に基づくもの(エングラ―体系)から、遺伝子の塩基配列に基づくもの(APG体系)へと変わっています。これにより「科」が変わった植物も多くあります。5.6.の図鑑に限りませんが、古い本に記載された科や属をそのままテストに書くと「×」をもらうことがあります。これだけが注意点です。
今回は古い本ばかりになってしまいました。新しいものでお薦めが見つかったら機会を見てご紹介します。ぜひ、図鑑を手に目の前の木の正体を当ててみてください。