樹木医になるには?-5つのハードルの飛び越え方Ⅲ-
こんにちは。今回は「樹木医になるには?」シリーズの第3回目です。前回は必要な業務経歴について説明しました。今回からは、いよいよ樹木医試験とその対策について説明をしていきます。
② 樹木医研修受講者選抜試験
1次審査では、業績審査と樹木医研修受講者選抜試験が行われます。業績審査は所定の様式に沿って①の業務経歴を記載し、雇用先等の証明書を提出するだけでOKです。そのため、1次審査のメインは「樹木医研修受講者選抜試験」で、一般的に「樹木医試験」といった場合はこの選抜試験のことを指します。この試験は樹木医資格取得の最大のハードルとされています。
選抜試験は樹木医に必要な知識や技術を問うもので、択一式35問と論述式3問です。それぞれ90分、計180分で実施されます。この試験で上位90~100名が研修受講者として選ばれます。受験者数は公表されていませんが、新聞報道によると2019年は約500人が受験し、合格率はおよそ20%とされています*1。
この先は試験内容と対策について詳しく解説していきます。他ではなかなか見られない内容なので、ぜひ参考にしてください。
■ 択一式試験について
樹木医が備えるべき一般教養(倫理を含む)および樹木医研修科目に関係する専門分野のほか、高等学校の生物の知識までの幅広い内容から出題されます。
【出題傾向】
例年よく出る分野は以下のとおりです(以下、筆者調べ)。これらは9割以上の正解を目指してしっかりと学習する必要があるでしょう。この中でも、樹木の生理、土壌、害虫、樹種の特徴については例年出題数が多く、特に重要な分野です。
・樹木概論(分類・樹種の特徴)
・樹木の構造と機能(材・道管等)
・樹木の生理(光合成、植物ホルモン、開花・結実)
・樹木の生態(分布)
・樹木と菌類のかかわり(病害、腐朽菌、共生菌)
・樹木と動物のかかわり(虫害、マツ枯れ、ナラ枯れ、鳥獣害)
・樹木と環境ストレス(気象害)
・土壌の診断と対策(植栽基盤としての土壌全般)
・後継樹の育成と遺伝子保存(遺伝・繁殖)
ちなみにこれらの分類は、後で紹介するテキストの章立てと対応しています。
【出題傾向の補足】
前述の通り、害虫(昆虫、ダニ、マツノザイセンチュウ)についての知識は欠かせまん。この分野は意外と苦手な人も多いことと思います。これについては、後ほど紹介する3冊目の教材が理解の手助けになります。
形状や生態などの特徴から樹種を判別する問題は毎年出ます。人気樹種のサクラに至っては、人文的な内容を含んだ横断的な問題まで見かけます。林業上重要なスギやヒノキ等の針葉樹と、意外にモクセイ科の樹木についても、まれに横断的な問題が出題されたことがあります。
題材は様々ですが、計算問題や表の読み取り問題が1~2問ほど出ます。これらは専門的な知識がなくても、落ち着いて考えれば解ける問題がほとんどです。ただし、遺伝の計算問題については、メンデルの法則を知らないと解けませんので、試験前におさらいしておきたいところです。
樹木医試験では、専門分野と一般教養(高校生物含む)の区切りは示されません。同じテーマであっても、年によって高校生物レベルの優しい問題であったり、専門的な内容になったりします。ただし、試験の大部分は専門的な内容、つまり大学の学部レベルです。
■ 択一試験対策
【いつ受けるか?】
大学の学部相当の知識が求められるため、樹木に関する専門教育を受けていない方や、卒業から時間が経ってしまった方は、しっかりとした学習が求められます。ベテランの造園技術者の方で何年も合格しなかったという話しを度々聞きますが、それは択一試験では実務的な知識を問われることは非常に少なく、問題の大半が学術的な知識を問うものだからです。
したがって、記憶がフレッシュな大学卒業直後や大学院在学中に受験するのが望ましいでしょう。筆者は大学卒業の翌年に受験をしたので、『あ、これは○○先生の授業で習ったやつだ!』という具合で大きな苦労せずにすみました。
樹木医試験は原則として5年(以前は7年)という実務経験が問われていることから、合格には現場経験を積むことが必要なのだという第一印象を持たれがちです。しかし実際はその逆、樹木医補資格を取得したらなるべく早く受験しましょう。
【どう勉強するか】
受験勉強のセオリー通りです。過去問を解いて分からないものをテキストで確認して正答率を上げていきます。その際は頻出分野を中心にテキストで勉強しましょう。広範囲の知識が問われるのがこの試験の特徴です。出題頻度が低い分野は深追いしない、メリハリのある学習がポイントです。
具体的には以下の方法がオススメ。まず問題を解き、理解が誤っていたり曖昧な選択肢をテキストで調べ、キーワードをマーク、補足説明を書き込んでいきます。情報が一元化できますし、ノートを作るより効率的です。不正解の問題と不安な問題はしばらく(1~2週間)後に再び解くと定着しやすいです。筆者も後輩もこの方法で合格をしました。
なお、最低限必要な教材は下記の3冊です。
【択一のオススメ教材】
1冊目
最新・樹木医の手引き 改訂4版
書店で購入が可能だが、基本的に店頭にはないのでamazonがお勧め。そろそろ第4版の改訂から10年が経つものの、変わらずこれが唯一無二の王道テキスト!試験を主催する日本緑化センターが発行しており、一通りは網羅されている。合格してからも樹木医のバイブル。索引が貧弱なのは我慢のしどころ。
2冊目
樹木医研修受講者選抜試験問題集(平成30~令和5年度版択一式)
日本樹木医会の書籍販売webサイトから購入できます。最新のものを購入しましょう。
3冊目
増補改訂 樹木医が教える 緑化樹木事典 ハンディ版
主要な緑化樹に関する情報が網羅されている。花木の花芽分化期(花の芽が作られる時期、この後に枝を刈り込むと今年の花は咲かない。)を書き込めば一通りの情報が集約できる。また、病害虫の名前や姿も紐づけて覚えられるのでよい。
選択肢レベルでは、1冊目のテキストに載っていない内容が出題されることも少なくありません。最短での合格を目指す場合、まずは正解を導ければ良いと割り切りましょう。WEBで調べてもすぐに理解できない選択肢は、一旦保留にして学習の後半に回します。繰り返しになりますが、樹木医に求められる知識は広範囲に及びますから、全ての選択肢を完璧に理解しようとするのは危険です。
ただし例外が「樹種別の特徴」に関する知識です。この分野は頻出にも関わらず、テキストにはあまり記載がないため、サクラ、スギ、ヒノキ、マツ、ケヤキといった有名な樹種はもちろん、主要な緑化樹の基本スペック、特徴、管理方法、病害虫、花期などは、暇があるときに図鑑で確認しておくことをお勧めします(覚えるというより、気軽に眺めるつもりで)。これには、3冊目の「緑化樹木事典」が役立ちます。
いかがでしょうか?
やる事と教材について整理すると、合格への道筋が見えてきませんか。ひとまず択一式については以上です。次回は論述式試験についてご説明します。
【引用・出典】
*1 資格取得、樹木医に認定 奄美新聞社 参照2024.10.31
https://amamishimbun.co.jp/2019/12/21/22270/
【参考文献】
一般社団法人 日本緑化センターhttps://www.jpgreen.or.jp/treedoctor/index.html
©じゅもくやん 2024.10.31 更新:2024.11.19