言語学習に初級とか関係ない?「言いたいこと」から覚えるのが最短という話
Swellの青波です。ご訪問くださりありがとうございます。
あらゆる言葉を覚えられるタイピングゲーム「TypeGO」を開発しています。現在β版で、英語教材のみ公開中です。
今回は、言葉学習のコツは、シンプルに「言いたいこと」「必要なこと」から覚えること。レベル分けなんてものはあってないようなもの。そんなことを教えてくれた、TypeGOの教材選定にも影響を与えたアメリカ滞在記をお届けします。
初めての英語の生徒は、スペイン語話者のメキシコ人
20歳のころ、私は本気で英語教師を目指していた。
初めてアメリカに渡って、カリフォルニア州の海沿いにある美しい街から30分ほどバスに揺られ、お世辞にも栄えてるとは言えないさびれた郊外にある、小さな語学学校に派遣された。
生徒は、自分のお父さんお母さんくらいの年齢のメキシコ人が20名。
ずんぐりむっくりした体格のおっちゃんがほとんどで、教室の後ろで授業を見学していると、チョコ(だいたいいつもスニッカーズ)をニコニコと手渡して「食べな!」とジェスチャーしてくるくらい陽気で自由だった。
2週間ほど実習を積んだのち、私も教壇に立って授業をさせてもらえることになった。
先生なのに、単語がわからない
はじめての授業日が1週間後に迫ったころ、教科書が配布された。私は「Elementary=初級」クラスの担当らしい。
電球にかざすと裏側の文字が全部透けて見えるペラッペラなA4紙の束を、2ヶ所ホチキスでとめた簡素なものだった。表紙にはTimes New Romanのフォントで印刷された語学学校の名前のみ。
パラパラとめくってみたけどイラストはなく、全て白黒。目次もなく、裏表紙からすぐにレッスン1が始まっていた。
とりあえず新出単語リストに目を通してみる。
lawn mower
あれ?
調べると「芝刈り機」と出てきた。知らんし、こんな単語。多分日本では英検1級の参考書でちらっと登場するくらいだ。
そのあともoccupationとか、detentionとか、よくわからん単語ばかり続く。数日後には先生として教壇に立って教えなくちゃいけないのに。新出単語の20%くらいしかわからない。結局、夜な夜な半べそかきながら単語を覚え、私の初めての授業はなんとか事なきを得た。
ただ、初級レベルだと言われた教科書はあまりにも難しい。
芝刈り機(lawn mower)はスペイン語でpodadora。似ても似つかぬので、言語学習に慣れておらず、なかなか覚えられない生徒も少なくなかった。
そこで担当教員のところへ相談しに行った。
初級レベルでlawn mower(芝刈り機)なんて難しすぎませんか?
当時の私の英語力だからとんでもなく拙かっただろうけど、率直な意見をぶつけてみた。
この教科書は生徒のレベルに合っていないと思う。彼らには「これはどういう意味ですか?」と聞ける英語力すらない。スペイン語を話せない私が教えても混乱させてしまう。まずはもっと覚えやすいテーマから始めたらどうか。なんならメキシコの文化とか。
すると担当教員はニコリともせず言い放った。
「教科書は変えない。芝刈り機は彼らにとって今すぐに学ぶべき言葉だからね」
言葉の学習にレベルなんてものはない。必要な言葉から学ぶべき
そこで知ったのだが、私の生徒は青年期にメキシコから米国カリフォルニアにやってきたヒスパニック系移民で、アメリカ国籍を持っておらず、まともな英語教育を受けた経験もなかった。日々、スペイン語で生きている。
それでも大人になって生まれた子どもは、アメリカ国籍を得て現地の学校に通う。そうしたときに、自分は英語でPTAに参加できない。家族を養うための定職にもつけない。そうした悩みを抱えた人たちが、仕事が終わってから、家族との団欒を犠牲にしてでも通っている語学学校だった。
「芝刈り機」は、フルタイム雇用されない彼らが日雇いで使っている商売道具。
occupationは、彼らが安定した生活を送るために必要な「職業」。
detentionは「自宅軟禁」とか「収容」で、まぁ…必要だったんだろう。
つまりそれらは難しい、とか言っている場合ではなく、生徒が生活のために今すぐに身につけるべき言葉だった。
そこでやっと、意味わかんない単語の羅列が、生徒にとって空気であり水であることを理解した。
人生で必要な言葉は、人によって違う
英語初心者の子どもが相手だったら、アルファベットや文法から教えていたと思う。一方、もうアメリカ生活も長くて、それなりに人生のステージが進んだ大人だから、日常生活で優先度の高いところから最短で穴埋めしていく、ブリコラージュ的な教育方針だったことが今ならよくわかる。
最初は文字なり文法なり、みんな同じ道を通るのに、学校教育が終了したとたん、仕事や家庭環境、住む場所、周りのコミュニティー…本当にいろいろな要素によって、必要な言葉はナマモノのように変わっていく。
でも「大人なんだから自分で学んでね!」が当たり前で、誰かが勝手に指導してくれるわけでもない。皮肉なことに言葉を使えるようになればなるほど、ネイティブのリアルな表現を学ぶ思いや必要性がもっと強くなってしまうはずなのに。
だから今、あらゆる言葉を学べるゲーム「TypeGO」を作っている。
ある程度言葉を話せる人。言葉の学習が大好きな人。そんな人が、シンプルに「言いたいこと」「必要なこと」そして「文法的には正しくないかもしれないけどリアルでは使われている表現」から効率的に覚えられるゲーム。
赤ちゃんに話しかける幼児語とか、推し活英語とか、ふざけたテーマ(作ってる我々は至って真面目に作っているのだけれど)を扱っている。
サービス理念については以下の記事でも触れているので覗いてみてください。
TypeGOの仲間も募集中です!
開発チームやデザインなどコアメンバーはいますが、言語調査だったり、開発テストだったり、実は色々な人に日々支えていただいています。
自分もテストユーザーになってみたい!こんな言語に興味があるから作りたい!こんな教材とのコラボレーションしたい!など、言語学習に関わることであればぜひ連絡ください。
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TypeGOはタイピングゲームを出発点とし、いくつかの段階に分けて構想があるのですが、それについては後日詳しく書きます。それでは、また。ここまでありがとうございました。