「ラブホ」を契約更新した話。
友人彼氏を家に招くと驚かれる。6.5畳の私のお城にはカビゴンのようなベッドが鎮座している。そのサイズ、なんとクイーン。部屋の半分、いや、3/5くらいがベッドだ。
「ラブホじゃん」と友人がからかう。「いや、ビジホって言って」と苦笑したが、たしかにどちらかというとラブホだ。ベッド、バリ風だし。大きなベッドで寝たいというワガママを叶えるにはちょっと無理がある広さだったが、なんとかギリギリ収まってくれた。
「ラブホ」のような私の家は、ビジネス街にほど近く、伝統的なお店が数多く並ぶ町にある。赤提灯の焼き鳥屋さん、鰻屋さん、和菓子屋さん。通勤のたびに何度も目にする風景だが、一度たりとも飽きが来たことはない。最初にこの町に降り立った時のことは今でも鮮明に覚えている。それは、上京して初めての「ただいま」という感覚だった。
名前は聞いたことがある、でも、知らない町。それなのになぜだろう、よそ者の私を暖かく包んでくれているような気がする。「おかえり!」と、玄関のドアを開けてもらったような、嬉しくてホッコリする感覚。ぐるりと町を歩き回った私はここだ、と確信した。絶対にここに住みたい。この町の空気をスゥと吸う。うん、やっぱりここだ。引越し先を決めるために地下鉄沿線を行脚していた私は、終わりが見えずにいたその旅を迷いなく終了させた。
あれから、2年が経った。町並みはほとんど変わらない。お気に入りのお店ができて、よりいっそう居心地は良くなった。そして私は「ラブホ」で初体験をすることになる。契約更新だ。
実は、引越しばかりしてきた人生だった。正式に数えてはいないが7、8回は居を移してきたと思う。「管理人のおばあちゃんが勝手に部屋に入ってくる」「壁が薄すぎて隣のカップルの個人情報がダダ漏れしている」といった特異なケースもあったが、「なんとなく好きじゃない」「なんとなくもう引越したい」という理由で、2年を待たずして家を変えてきた。過去の住まいも悪くはなかったが、別に最高ではなかった。
この家で過ごして2年。この町に住所を移して2年。色んなことがあった。憂鬱な日も、最悪な日も、たまらなく嬉しい日もたくさんあった。次の2年はどうしているだろう。その先の2年は?まだこの町にいるのか、今の自分には分からない。でももしここを離れていても、この町を好きな気持ちは変わらないだろう。家賃の関係でどれだけ狭くて、どれだけ不自由な部屋に住もうとも、大好きな町に住める喜びは何ものにも代え難いのだと知った。
本当に好きなら、同じような毎日でも2年は飽きがこないらしい。本当に好きなら、どれだけ不自由なことがあっても気にならないらしい。本当に好きなら、2年なんて言わず、ずっとそこにいたくなるらしい。
どんな出来事も恋愛に絡めて考えてしまう自分の脳ミソに呆れながら、手を広げても十分すぎるベッドに寝転がった。