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【人事指標と分析③】人事分析で活用すべき9つの重要な用語とその実践方法


はじめに

 現代のビジネス環境では、データを活用した意思決定が競争力の鍵を握っています。かつての人事部門は、採用や給与管理といった管理業務が主な役割でしたが、現在では、データを基に戦略的な意思決定を行い、企業全体の成長に寄与することが求められています。従業員に関するデータを活用し、具体的な改善策を提案することで、人事部門は単なるバックオフィスの役割を超え、ビジネスの成功を支える中核的な存在になれるのです。

 この記事では、HR分野の教育機関AIHR(Academy to Innovate HR)が公開した「9 HR Analytics Terms Every HR Professional Should Know」を基に、人事データ分析に欠かせない9つの基本用語を詳しく解説します。これらの用語を理解し、実務に取り入れることで、組織全体のパフォーマンス向上に寄与するだけでなく、データを基盤にした戦略的な人事管理を実現することが可能になります。

【前回の記事】




1. データマイニング(Data Mining)

概要
 データマイニングとは、大量のデータから有益な情報を抽出する技術のことです。パターンや関連性を特定し、現状の問題を明確化し、解決策を見つけるための土台となります。人事部門では、従業員の離職データや業績データを分析する際に活用されることが多く、データの中に潜む原因や影響を明らかにします。

【実践例】
・離職率が特に高い部署を特定し、原因を掘り下げる。
・業績データを基に、目標達成率の低い要因を発見。

 たとえば、ある企業では、過去3年間の従業員の離職データをデータマイニングを活用して分析しました。その結果、特定の部署で離職率が異常に高いことが判明しました。
 さらに、データを掘り下げることで、その部署では上司とのコミュニケーションが不足しており、社員が孤立感を感じていることが原因であるとわかりました。この情報を基に、定期的な面談やチームビルディング活動を導入することで、離職率を25%削減することができました。



2. 機械学習(Machine Learning)

概要
 機械学習は、コンピュータがデータを基に学習し、予測や意思決定を行う技術です。HR分野では、採用活動や昇進候補者の選定、従業員パフォーマンスの予測などに広く応用されています。特に、大量のデータを扱う場面でその威力を発揮し、従来の分析では見つけられなかった隠れたパターンを特定するのに役立ちます。

【実践例】
・応募者データを基に、採用成功率の高い人材を予測。
・従業員の評価データから、昇進に適した候補者をリストアップ。

 たとえば、ある企業では、過去の採用データを活用して、応募者の履歴書や職務経験から適性スコアを算出する機械学習モデルを構築しました。このスコアは、採用担当者が注目すべき候補者を迅速に特定するのに役立ちました。この結果、採用プロセスが効率化され、採用コストが15%削減されるとともに、新入社員の適応率が向上しました。


3. 意思決定ツリー(Decision Trees)

概要
 意思決定ツリーは、選択肢とその結果を視覚的に表現するツールです。複雑な選択肢がある場合に、それぞれの選択肢がどのような結果をもたらすのかを整理し、最適な意思決定を行うために使用されます。HRの分野では、昇進候補者の選定や離職防止のための施策設計に活用されます。

【実践例】
・昇進候補者を選定する際に、候補者のスキルや業績を基に評価基準を設定。
・離職リスクが高い従業員を特定し、早期のフォローアップ計画を策定。

 意思決定ツリーを使用することで、各候補者の特徴や業績を視覚的に比較することが可能です。たとえば、ある企業では、昇進プロセスの透明性を高めるために意思決定ツリーを導入しました。これにより、選考基準が一貫し、従業員間での公平性が向上しました。その結果、エンゲージメントスコアが10%上昇しました。



4. 構造化データ(Structured Data)

概要
 構造化データは、行と列で整理されたデータで、スプレッドシートやデータベースに保存されます。HR分野では、従業員情報、給与データ、勤怠記録などが該当します。この形式のデータは分析が容易で、数値データの計算や比較に適しています。

【実践例】
・賃金格差を分析し、報酬の公平性を確保。
・勤務年数データを活用して、離職傾向を予測。

 たとえば、給与データを詳細に分析することで、男女間の賃金格差を明確化し、是正措置を講じた企業では、従業員の信頼感が向上し、採用候補者からの応募率が20%増加しました。



5. 非構造化データ(Unstructured Data)

概要
 非構造化データとは、形式が明確に定義されていないデータを指します。具体的には、テキスト、画像、音声、動画データなどが該当します。これらのデータは、データベースにそのまま整理して保存することが難しいため、従来のデータ分析手法では扱いにくいとされてきました。しかし、自然言語処理や画像解析技術の進歩により、HR分野でもこの非構造化データが重要な役割を果たすようになっています。たとえば、従業員のフィードバックや面接の録音データから、感情や満足度を分析することが可能になりました。

【実践例】
自由記述アンケートの分析: 従業員アンケートの自由記述部分を分析し、彼らがどのような課題や期待を持っているのかを把握します。これにより、組織の課題を浮き彫りにし、改善の方向性を示すことができます。
ソーシャルメディアの投稿のモニタリング: 会社に関するソーシャルメディア上の投稿を収集し、評判やブランドイメージを評価します。これにより、採用候補者や顧客に対する企業の印象を管理できます。

 たとえば、ある企業では、退職者の自由記述フィードバックをテキスト分析ツールを使って解析しました。これにより、退職理由として最も多く挙げられたのが「キャリア成長の機会不足」であることが判明しました。これを受けて、同社は従業員のキャリアパスを明確にし、成長のための新しい研修プログラムを導入しました。その結果、従業員の満足度が大幅に向上し、離職率も15%低下しました。


6. KPI(Key Performance Indicators)

概要
 KPI(主要業績評価指標)は、組織やプロジェクトの目標達成度を測定するための指標です。KPIは、組織全体のパフォーマンスを数値化し、評価や改善に役立てるために設定されます。HRの分野では、離職率や採用充足時間、従業員満足度スコアなどが一般的なKPIとして用いられます。これらの指標は、組織のパフォーマンスを直接的に測るだけでなく、どの施策が成功しているかを評価する基準にもなります。

【実践例】
採用充足時間の短縮: 採用プロセスの効率を測定するために「Time to Fill」(ポジションが埋まるまでにかかる時間)をKPIとして設定。採用プロセスを見直し、平均充足時間を10日短縮しました。
エンゲージメントスコアの向上: 従業員エンゲージメントスコアをKPIとして追跡し、部署ごとに改善施策を実施した結果、組織全体のスコアが20%向上。

 KPIを設定する際には、組織の目標と整合性を持たせることが重要です。たとえば、ある企業では、新入社員の定着率をKPIとして設定しました。この目標を達成するために、オンボーディングプロセスを見直し、新入社員が会社に早く馴染めるようにサポートプログラムを拡充しました。その結果、定着率が85%から92%に改善しました。



7. ROI(Return on Investment)

概要
 ROIは、投資に対する利益率を測定する指標であり、人事部門が実施する施策やプログラムの効果を評価するために広く使用されます。たとえば、研修プログラムにどれだけのコストをかけ、それが従業員の生産性向上や離職率の低下にどのように寄与したかを定量的に評価できます。

【実践例】
研修プログラムのROI計算: 新しいリーダーシップ研修プログラムに100万円を投資した結果、離職率が10%低下し、業績が5%向上しました。この影響を金額で算出し、投資の価値を評価。
採用活動の効果測定: 広告に100万円を投じた採用キャンペーンのROIを計算し、どのチャネルが最も効果的だったかを評価。

 ある企業では、研修プログラムにかけたコストと、その結果得られた業績向上の割合を比較してROIを計算しました。この分析により、特定の研修プログラムが他のプログラムよりも生産性を2倍向上させる効果があることが判明しました。この結果に基づいて、同社はリソースを効果的なプログラムに集中させ、経費を最適化しました。



8. ダッシュボード(Dashboards)

概要
 ダッシュボードは、データをリアルタイムで視覚的に表示するツールで、組織の現状を一目で把握するのに役立ちます。人事部門では、採用進捗状況、従業員満足度、エンゲージメントスコアなどを一元的に管理し、視覚化するために活用されています。

【実践例】
採用プロセスのモニタリング: 採用活動の進捗をリアルタイムで表示し、どのポジションが充足されたかを即座に把握。
エンゲージメントスコアの監視: 部署ごとのエンゲージメントスコアをダッシュボードで表示し、改善が必要な分野を迅速に特定。

 たとえば、ある企業では、ダッシュボードを導入して採用プロセスを一元管理しました。これにより、採用活動の進捗をリアルタイムで確認できるだけでなく、ボトルネックを特定して迅速に解決することが可能になりました。この結果、採用期間が平均15日短縮され、採用効率が大幅に向上しました。



9. 予測分析(Predictive Analytics)

概要
 予測分析は、過去のデータを基に未来の結果を予測する手法です。HRの分野では、離職リスクの高い従業員を特定したり、次世代リーダー候補をリストアップしたりする際に活用されています。これにより、潜在的な問題に先回りして対応することが可能になります。

実践例
離職リスクの特定: 勤務年数や業績評価のデータを基に、離職リスクの高い従業員を特定。早期にフォローアップを実施することで、離職率を10%低下させました。
リーダー候補の選定: 過去の昇進データを分析し、次世代リーダーとなる可能性が高い従業員を特定。

 ある企業では、予測分析を活用して離職リスクのある従業員を早期に特定しました。このリスクに対応するために、パフォーマンス評価やキャリア面談を実施し、適切なサポートを提供しました。その結果、離職率が顕著に低下し、採用コストの削減にもつながりました。


まとめ

 これらの9つのHR分析用語は、戦略的な人事管理を実現するための基本です。これらを理解し、日々の業務に取り入れることで、組織全体の成功に寄与することが可能です。データ主導型の意思決定を通じて、より効果的なHR戦略を実現してください!

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