
【知っておきたい】パリ協定の進捗と未来への課題
パリ協定の現況とグローバル・ストックテイクの現況を詳しく見る
パリ協定の経緯
パリ協定は2015年に採択され、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて「2℃未満」に抑えること、可能なら「1.5℃」以内に抑えることを目標としています。
現在、197の組織が参加し、全世界のほぼすべての国が加わっています。この協定は、先進国と途上国を問わずすべての締約国がそれぞれの国情に応じて行動計画を作成することを義務付けている点で、過去の国際枠組みとは異なる包括的なものとなっています。
日本の進捗状況
2030年度の目標: 2013年度比で26%削減。
2016年度の状況: 7%の削減を達成し、目標ラインと同水準。
問題: エネルギー供給の低炭素化や省エネルギーの推進が進まないことが課題として挙げられます。また、原子力発電の活用を巡る国内の議論が進捗に影響を与えています。
主要国の進捗状況
英国: 2030年度までに1990年比で57%削減する目標を設定。
2016年: 41%削減を達成。再生可能エネルギーの拡大と石炭火力発電の段階的廃止が進んでいます。
米国: 2025年までに2005年比で26~28%削減する目標。
2016年: 達成率12%と、不足が指摘されています。連邦政府レベルでの政策転換の影響が課題。
フランス: 2030年までに1990年比で40%削減する目標。
2016年: 18%削減で目標に達していないものの、原子力発電を活用した低炭素エネルギー政策が進んでいます。
ドイツ: 2030年までに1990年比で55%削減する目標。
2016年: 27%削減。再生可能エネルギーへの移行が進む一方、石炭火力発電の依存が課題。
中国とインド

中国
目標: 2030年までにCO₂排出量のピークアウトを達成、2060年までにカーボンニュートラルを実現。
進捗: 再生可能エネルギーの導入が急速に進展しており、特に太陽光発電と風力発電の拡大が顕著です。また、電気自動車(EV)の普及が進み、排出削減に貢献しています。
課題: 石炭火力発電の大規模な依存が依然として課題。
インド
目標: 2030年までにGDP当たり排出量を2005年比で33~35%削減。
進捗: 再生可能エネルギーの導入が進んでおり、特に太陽光発電の拡大が進行中です。しかし、経済成長に伴うエネルギー需要の増加から、石炭火力発電の利用が引き続き課題となっています。
特記事項: エネルギー政策の多角化が求められており、再生可能エネルギーの拡大に向けた投資が増加中です。
グローバル・ストックテイク(GST)とは

グローバル・ストックテイク(GST)は、パリ協定の進捗を評価するための5年ごとのレビュー制度であり、すべての締約国が自らの行動計画を見直す機会を提供します。このプロセスは、科学的データに基づき、各国の取り組みを総合的に評価する仕組みです。
活動の流れ
データ収集: 各国が進捗状況を報告し、温室効果ガスの排出量や削減目標の達成度を明らかにします。
技術的評価: 学者や専門家が各国のデータを分析し、透明性の確保と正確な進捗評価を行います。
総合的結論の提示: 評価結果をもとに、次の目標設定に向けた方向性を提示します。
論文に基づくパリ協定とGSTの分析
パリ協定とグローバル・ストックテイク(GST)に関する論文からは、多角的な視点が示されています。

東京大学の高村ゆかり教授は、パリ協定が全ての国に温室効果ガス削減目標の設定と報告を義務付けた点を高く評価していますが、各国間の透明性確保や途上国への支援強化が今後の課題であると指摘しています。特に、途上国では財政的・技術的支援の不足が進捗を阻む要因として挙げられており、これを解決するためには、国際協力の枠組みをさらに強化する必要性が論じられています。
また、地球環境戦略研究機関(IGES)は、第1回GSTが世界全体の進捗を評価する重要な仕組みであると述べ、特に非政府主体(NSA)の参画が鍵になるとしています。民間企業や市民団体の積極的な関与が、政府主導の取り組みを補完し、削減目標の達成に寄与するとの見解です。一方で、これらの主体間でのデータ共有や協力が不十分であることが、GSTの効果を制限しているとも指摘されています。
そして、電力中央研究所の上野貴弘氏は、中国を事例に国別目標の進捗捕捉を試行した研究を通じ、エネルギー統計の改訂や非化石比率の定義変更が進捗評価に与える影響を強調しています。正確なデータ収集と透明性の確保が不可欠であり、これが不十分な場合には、各国間での信頼構築に悪影響を及ぼす可能性があると警告しています。
さらに、電力中央研究所の堀尾健太氏は、COP28で採択された第1回GSTの成果が、2025年の次期NDC(国が決定する貢献)提出に向けた重要なステップであると評価しています。しかし、世界全体の温室効果ガス排出量の経路がパリ協定の温度目標と一致していないことを指摘し、各国がより野心的な目標を設定する必要性が議論されています。
国際エネルギー機関(IEA)も、再生可能エネルギーの急速な普及が一部の国で進んでいる一方、化石燃料への依存が依然として世界的な課題であることを強調しています。IEAは、GSTを通じて化石燃料からの移行を加速し、エネルギーシステム全体を低炭素化する取り組みを強化する必要があると提言しています。
まとめ
パリ協定とグローバル・ストックテイク(GST)は、地球規模での気候変動対策を促進する重要な枠組みです。各国がそれぞれの経済状況やエネルギー政策に基づいて目標を設定し、達成を目指している一方で、多くの課題も残されています。特に、途上国への支援、正確なデータ収集、再生可能エネルギーの普及、そして化石燃料からの移行が、世界全体の気候目標達成に向けた鍵となります。
これからの取り組みでは、国際協力の強化や技術革新の推進が不可欠です。先進国と途上国が協力し、非政府主体を含めた多様なステークホルダーが連携することで、気候変動への対策を加速させることが求められています。
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参考文献
高村ゆかり. 「パリ協定の意義と今後の課題」, 東京大学.
地球環境戦略研究機関(IGES). 「グローバル・ストックテイクに関する研究報告」.
上野貴弘. 「中国におけるエネルギー統計の改訂と進捗捕捉の課題」, 電力中央研究所.
堀尾健太. 「COP28におけるGSTの成果とNDCへの影響」, 電力中央研究所.
国際エネルギー機関(IEA). 「再生可能エネルギーの普及と化石燃料依存の課題」.