哲学の中のギリシア語
主に現象学者たちですが、彼らがよく使うギリシア語。たまにローマ字せずギリシア文字のまま登場することもある。
(1)ἐποχή
おそらく一番有名。フッサールが自らの現象学的方法として提示した概念。エポケーとそのまま言われることが多いが「宙吊り」という意味。ギリシア語だと意味は「中止」や「休止」。
(2)ὕλη
ヒュレーというやつ。「質料」と訳されることが多いがギリシア語のもとの意味は「木材」「山林」。転じて「材料」「素材」となりすでにアリストテレスでは哲学的概念として使用されていた。フッサールもヒュレーをある種の現象学的な素材、比喩的にいえば家を建てるために使われる木材、という意味合いで使用していた。
(3)μορφή
モルフェー。form(形式)のこと。フッサールだとヒュレーをまとめ上げる形式のことであり、その統一によって全体として有意味な志向的体験となる。アリストテレスではこれもまた哲学的概念としてすでに用いられていた。アリストテレスの場合、次のエイドスとほとんど同義だが、感覚的な事物のエイドスのことをモルフェーと呼ぶらしい(『形而上学』1033b参照)。
(4)εἶδος
エイドス。形相と訳されるわけだが、ギリシア語だと「見られるもの」という意味である。フッサールの形相的直観が有名。フッサールの場合だと、すべてのものには形相が備わっており、それを直観することで特殊なものから普遍的なものまで様々な階層に分類される形相的学問が成立することになる。つまり形相とは万物に備わる何がしかの普遍的な物事。モルフェーとは全く関係がない。
(5)ἀρχή
アルケー。始まりのこと。「万物の根源は・・・である」であるという文句の「根源」はこの語を使っている。archeology(考古学)の語源である。
(6)τέλος
テロス。アルケーと対で終わりのこと。目的とも訳される。
(7)ὕβρις
ヒュブリス。傲慢のこと。リシールによればデカルト的な(誇張的懐疑の)誇張はこの傲慢に起源を持つらしい。
(8)τὸ ἄπειρον
トアペイロン。無限なもの。無限定なものと訳されることもある。なんで το(冠詞)が前にくっついているかといえば、απειρον が形容詞だから。形容詞に冠詞をつけると名詞化する。んなわけでトアペイロン。
(9)το αόριστον
トアオリストン。無限定なもの。上と意味は非常によく似ている。ちなみにギリシア語の単語の最初にくる α は否定の意味を表す。οριστον は ὁρίζω 「規定する、限定する」という動詞から来ており、その否定なので α がくっついている。トアペイロンも一緒。
(10)ζωή
ゾーエー。生命。βιός と区別されて使用されるがその解釈はいろいろあるようである。
(11)χώρα
コーラ。場という意味。デリダが有名にしたギリシア語。プラトン『ティマイオス』で登場するわけだが、そこでは生成するものの「受容器」としてこのコーラが語られている。
(12)φαντασία
ファンタジア。いわゆるファンタジーの語源である。この言葉がローマの時代になってラテン語の imaginatio に翻訳された。つまりファンタジアの方がイマジネーションよりも古くから存在する言葉である。
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