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いじめの記憶

小学校2年生だった。

校庭の真ん中で、児童数人が輪になって集まっていた。

何事かと中を覗き込むと、少し掘られた穴の中に一匹の芋虫がいた。

そのうちの男子がちょっと重たそうな石を持っていて、芋虫目掛けてその石を投げ落としていた。

芋虫からは緑色の体液が流れていた。

「気持ち悪りぃ」

男子がぎゃあぎゃあ騒ぐ。

女子もきゃあきゃあ叫んでいた。

一発、二発。

みんな代わり番こに石を投げる。

なす術ない芋虫は、ただ痛みに身を捩っていた。



中学生の時、いじめられていた。

不運にも目を付けられてしまった。

きっかけは些細なことだった。

不名誉なあだ名をつけられ、クスクスと笑われ、みんなに無視された。

他にも色々あった。

辛かった。

毎日学校に行くのが恐怖だった。

本気で死にたいと思う日もあった。

それでも1日も休まず、遅刻も早退もせず学校に通った。

私は毎日、卒業する日を心待ちにしていた。

“あいつらが泣いて卒業する時、私は笑って卒業してやる”

それだけを胸に、辛い学校生活を耐え抜いた。

卒業式の日、私は皆勤賞をもらった。

表彰された時、僅かに周囲がざわめいた。

卒業式で泣いた奴は一人もいなかった。

私は拍子抜けした。

どいつもこいつもくだらないと思った。



中学校を卒業して15年経った。

私は、あの時の芋虫と中学生の私を重ねてみる。

残酷な好奇心と理不尽に包まれた世界。

まちなかでワイワイとはしゃいでいる学生たちとすれ違う時、この子たちが幸せな学校生活を送れていればいいな、といつも思う。

そう思えるまでにずいぶん時間がかかった。

今年31歳になった私の毎日は、平穏で、ちょっと幸せなのかもしれない。

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