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見上げればいつも四角い青空#37 ヴェネチアの冬の青空とビーチサンダル

「冬の匂いがする」

玄関を出た瞬間、おくさまが頬に手をあて呟く。

今年は11月に入ってからもしっかりと冷えず、霜が降りる気配すらない日々に、本当に冬は来るのかなと心配していた矢先だった。だからこそしっかりと冷えた初冬の朝、澄み切って雑味のない、鼻の奥を一瞬にして冷やす冬の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

見上げる空は、蒼く高い。ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂に表現した“最後の審判”を思わせる空だった。
水色というより青の割合が少し多めの空は、地中海に突き出るブーツのようなイタリア特有のものかと思っていたけれど、単なる思い込みだった。

同じように冬の匂いを強く感じたのは、以前おくさまと一緒に訪れたヴェネチアの朝だった。前夜に激しく降った雨が浮遊物を洗い落とし、美しい朝焼けとともにしっかりと冷え込んだ11月の朝だ。

よく憶えているのは、旅行中の出来事だったこと以外にも理由がある。前日、日本から履いてきた靴が壊れたのだ。
すでに夜、ホテルにも到着している……。明日からの旅程をどうしようか、と悩んでいると、ドライバーのカッテッロさん(仮名)が、「オレが直してきてやるよ!」と靴の修理を引き受けてくれたのだ。その後の旅程が荒んだものにならなかったのは、彼のおかげといっても過言ではない。

そうは言っても明日の朝、何を履いて過ごすか。助けてくれたのは、スーツケースの中でどんな態勢になっても文句も言わずそこにいてくれるビーサンだった。
翌朝、足元のビーサン以外は着ぶくれするほど暖かくして挑んだけれど、地中海に飛び出すように位置するヴェネチアの11月は、海からの冷気で足元から寒かった。

今日と同じように冬の匂いがした朝、サンマルコ寺院の鐘楼の緑の屋根とオレンジの壁面に映える青空の下、胸いっぱいに雑味のない冷気を胸いっぱいに吸い込んだことを鮮明に憶えている。

今年も冬はしっかりと近づいている。そろそろコートも必要だ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。同じようでいて同じではない日々の生活の中で、感じたことや考えたことをスケッチしています。よかったらまた立ち寄ってください。

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