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生の滝

「生一本」という言葉がある。
まっすぐ一つのことに打ち込んでいくという意味らしい。

この言葉を聞いた時、自然のまま、生(き)のままの一本の滝を思い出した。

頭上から膨大な水が、しぶきをあげて静かに降ってくる。
滝は長野県軽井沢町の森の中、白い建物の中にある。
流れに飲まれそうになる滝を形作るのは、岩絵の具だった。
漆黒の空間に光り輝くように、朝日に照らされて色を変え、森の湿った空気の中に、その時々で存在感を放つ滝の前に立つと、存在しないはずの音や香りを感じ始める。

美術館内に陽光がさし、遊ぶように様々な方向を向いた壁に多くの滝の絵がかけられている。滝の向こう、ガラス越しに屋外の植物が伸びているのが見えた。絵画を劣化させる日光を避けないのは、天然の岩絵の具は劣化しないからだという。
館内の滝は作家の作品の一部らしい。どれだけ描き続けたらこの雰囲気をまとえるのか。
私は時を忘れて止まった滝の流れに耳を澄ませた。

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