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親愛なるJ-HOPE様へ



「推し」と「リアコ」は違うと初めに言ったのは誰か。
オー・ヘンリーは多くのショートショートをこの世に残したが、そこで愛を語るときは「自己犠牲」が根底にあった。もしも自己犠牲こそが愛になるのならば、またその愛というカテゴリーの中に「恋」が含まれ、異性のことを性的な目で見ることや、どうしようもなく慕わしくて切ないほどに心ひかれるさまを「恋」と定義されるのならば、私のチョン・ホソクに対する感情は確実に愛であり恋である。
「不在は心に好意を育てる」という諺はイギリスのものだが、会えない存在の彼を神格化しているだけではないかと「将来寿退社」という字面を具現化したような女に再三言われてきた。私の恋バナを彼氏がいない女の悲しい遠吠えだと憐みの目を向ける彼女たちにSKOOL LUV AFFAIRのwhere you fromを歌っている瞬間やキムテヒョンの愛犬であるタタを抱きしめている写真、in the soopで黙々と飛行機を作っている姿を見せ説得することも可能だが、それはただのオタクの布教だと思われるだろうから敢えて行わない。恋とはいつでもそうである。自分だけが彼の良さを知っており、自分の感情と向き合い理解していれば良いのだ。寿退社7:3分け前髪女の犬も食わぬ彼氏との痴話喧嘩話を私がまともに聞いていないのと同じで、私がホソクに惚れ込んでいる事実を彼女たちが聞き流すことは一向に構わないのだ。
 そのためこれから記す内容はある一定の人たちにとってはオタク定型文第一章「推しの好きなところ」でしかないと思うが、一部の人にはシェイクスピアが書く悲喜劇のプロローグのようなものになるだろう。

 まず初めに断っておくが、私の推しは防弾少年団のチョン・ジョングクであり、チョン・ホソクではない。(ここからはチョン・ジョングクのことを愛称であるぐぅちゃんと呼ぶ)もちろんぐぅちゃんの幸せを心から願い、彼が笑えば私の心の中には一面美しい花が咲き誇るが、私が好きなのは少なくとも歌って踊るアイドルとしてのぐぅちゃんである。
しかしチョン・ホソクに関して言えばアイドルである彼ではなく人として、もっと言えば男として惹かれている。
よくある話だが、女子校育ちの女が髪を黒から茶色にした後大学に入学し、同じサークルの先輩に飲み会で理性がなくなるほど飲まされた挙句処女を奪われたとする。女子校育ちの女がその時先輩に抱く感情を説明するのは野暮な気もするが、あえて言及しよう。ここでいきなり「好き!」とスイッチが切り替わる女の自尊心が足の爪先より下にあることは間違いない。いくら女子校育ちとはいえ大半は行為をしたからといっていきなり好きになることはない。第一段階が「気になる人」だ。この例えと私の彼に対する感情を並べるのも甚だおかしな話であり、少し的外れな気もするが、私も初めは彼を恋愛対象で見ていたわけではなく、推しグループアイドルのメンバーの1人であったし、"ある写真"を見てからも「気になる人」でしかなかった。
この"ある写真"こそが、私の大学4年を歪めた要因のひとつであるが、それは5月のある日、Twitterのタイムラインにあげられた。防弾少年団の1人、キムテヒョンの愛犬、タタを抱いた写真。白いTシャツとジーンズ生地の短パン。右手首には2つ、反対側の手首には1つブレスレットがつけられている。健康的な腕は大事そうに犬を抱きかかえている。綺麗な横顔。整った耳。セットしてから少し時間が経過したような髪型。美しくのびた首筋。所謂「彼氏ショット」だ。それを見た瞬間、それまで「推しと同じグループのメンバー」だった彼が、チョン・ホソクとして存在し始めた。
 それから1ヶ月後、私は恋に落ちた。
恋に落ちる瞬間というのものは何も、桜が舞い散る4月だけの話ではない。
6月のジメジメとした梅雨の日、カーテンで締め切られた薄暗い部屋の中ひとつだけ明るい携帯を見つめている瞬間でも、人は恋に落ちることが出来るのだと私はそのとき初めて知った。
正方形の形をした写真には綺麗な横顔が収められていた。いつもニコニコ笑っているBTSの HOPEである彼が、珍しくすました顔をしている。への字にされた口。いつもタレ目のニコニコした一重の目は、鋭く冷たい目を放っている。しかし、勘違いしないで欲しい。その冷たさはプロとしての冷たさのようなものであり、決して何かを睨んでいるようなものではないのだ。また、黒いシャツに隠されていようと分かるダンスで鍛えられた分厚い胸板と隆々とした筋肉。
それを見た瞬間から、わたしの右指は止まらなかった。「チョンホソク」検索。「ホソク」検索。「J-HOPE」検索。「ホビ」検索。今までにないほどインターネットの波に溺れた。その波は私の思考を沸騰したお湯にいれたチョコよりも溶かし、更に800wの電子レンジに入れた。
 ここで一つだけ忠告することがある。片想いとは常に、天国と地獄が共存した状態が続く。彼を見ると幸せになる。頭に沢山の花が咲く感覚が分かる。笑顔になれる。胸が高鳴る。しかし、それと同時に"今彼が何をしているのかわからない"状態に胸がざわつく。女の影はないか、まるでナマハゲのように松明を振りかざした。しかし彼の情報は画面からしかわからない。どうしたら良いものか模索した。
 大学4年の夏、地獄の暑さの中わたしの右手はそのむさ苦しさを加速させた。モワモワとした部屋の中で携帯と仲良く彼の動向を伺っていた。過去の空港写真から、V LIVE。Twitterに投稿される写真は何よりもわたしのご褒美となった。仲間は沢山いた。特定班が素早く彼の着ている洋服やアクセサリーを突き止めていたからだ。
この時から今までのわたしの地獄の日々を綴るのは辞めておこう。なぜなら私の前には言語という高い壁が立ちはだかったからだ。話せばあまりにもストーリーが長くなる。それはカラマーゾフの兄弟を凌ぐ。加えて誰もが完結を諦めた『罪と罰』よりも退屈だろう。
最後に彼へ向けた恋文で終わらせたい。
 チョン・ホソクさんへ
あなたに送る言葉は「愛してる」の一言では足りません。あなたはいつも健康に過ごしてくださいと言うけれど、私はあなたが心配です。努力家で完璧主義で、人に優しく自分に厳しいから。自分を苦しめてないですか、毎日何回笑えていますか。私はあなたが幸せなら幸せです。だから、必ず幸せに笑って過ごしてください。また、みんなの希望であるあなたが、少しでも私を希望に思ってくれると嬉しいです。そしてありきたりかもしれないけれど、最後に言わせてください。愛してます。

美紗

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