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おいしい記憶:「のたもち」

第13回
「あなたの『おいしい記憶』をおしえてください」
コンテストに応募したエッセイです。
はじめてコンテストというものに応募して、
番組に取り上げていただき、
貴重な体験をさせていただきました。
もしよろしければ読んでみてください。

「のたもち」

ほかの家の言い方は知らないが、
我が家ではそう呼んでいた。
いわゆる枝豆を使ったおはぎのようなものだが、
お茶碗によそって食べる。
半殺しにしたあたたかい米の上に甘じょぱい
「のた」をかける、枝豆の香りがふわっと立って
なんとも美味い!
これに母の作った「夕顔のあんかけ」があれば
夏のごちそうだ。
子供の頃はお盆に訪れた母の実家で振る舞われた。

「のたもち」はできれば枝付きの枝豆がよい、
枝からさやをはずす作業からはじまる。
外したさやを茹で豆をすり鉢に入れ
すりこぎで擦る。
この作業はたいてい父がやっていた、
わたしと母はすり鉢を押さえる係だ。
豆をつぶすと鉢からピョンと飛び出る、
それを食べる。そんなことを繰り返しながら
粘りがでるまでつぶす。
そこに塩と砂糖を加えてしっとりしてきたら、
水を加えて泡がでるまでひたすらかき混ぜる。
父が嬉しそうにすりこぎを指でぬぐって
何度も味見をする姿に「嫌だなぁ」と
顔をしかめて眺めていた。
もち米とうるち米を半々で炊きジャーの中に
直接すりこぎを入れ半殺しにする。
半分くらい潰すという意味だが、
めったに使わないので、
言いながら潰すのが楽しい。
のたもちは足りなくならないように沢山作る。
余れば次の朝、少し温めたごはんに
冷たい「のた」をかけるのも好きだ。

父が味見をしながら作った「のたもち」は
大抵は美味しい、
いつも今回は甘すぎるとかしょっぱすぎるとか
文句を言いながらも何度もおかわりして食べた。

父が亡くなって今年で七回忌
諏訪地域では七年に一度開催されるお祭りがある。
柱が通るのが見える位置に家を買い、
毎回楽しみにしていた。
最後は直接見ることは叶わず亡くなった。
ちょうど桜が満開だった。
その年の新盆に母と兄と「のたもち」を供えした。
つい砂糖をかげんしてしまうので、
父に「もっと砂糖いれなきゃだめだぞやぁ!」
と言われてる気がした。

最近は、人が集まる機会もあまりなく
手間のかかる「のたもち」は
あまり作らなくなった。
それでも、
スーパーなどに枝付きの枝豆と夕顔が
出回ると「のたもち」と「夕顔のあんかけ」
を食べたくなる。

今年の夏は作ろう
白いお砂糖と塩をたくさん入れた
「のたもち」を


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