すれ違う車
その日私は高速を走っていた
もう12月だというのに雪が積もってないので
何の心配もなく車を走らせている
窓の外は鈍色の空と灰色の山が溶けて境目を曖昧にし
そして時折黒いカラスがガードレールにとまって居るだけ
今年は例年以上に降雪がなく雪が積もる日がほぼ無かった
暖冬の影響は如実にこんなところにも現れている
私の住む地域は豪雪地帯に含まれているため
一般道も高速もそれはそれは真冬の道路状況がとても気になるところだ
除雪車が作業をしてはくれるが
冬の遠出は肉体的にも精神的にも疲労感が半端ない
普通の道路を通るときに比べたら倍は疲れるだろうか
ホワイトアウト・路面凍結・スリップ・・・
以前真冬に遠出した際複数台が絡んだ集団事故に巻き込まれたことがあるので
それからは細心の注意を払って冬は運転するようになった
経験したものでなければ理解出来ないがあの恐怖を身をもって体験できたことは何より自分の財産だ
今期の冬はどうやらこのまま春になるかも・・・
冬らしくない風景に寂しさを感じるが
でもそのおかげで
片道1時間以上掛かる遠出にも何の心労も必要なく出掛けることが出来る
この高速はまだ完全に有料化されておらず試験運用という形で無料のままなので
国道のような扱いで利用している
どの車のスピードも50~80kmとあまり出ていない
だからつい
いつもの癖で対向車の運転手を目で追いかける
平日の日中はトラックやダンプ・商用車の割合が圧倒的に多いので
たいてい運転手は男性だ
この『対向車の運転手をみる』ことを人に話すと賛否両論だ
たいていは
「あぶない」
と言われる
そもそも運転してるのに前方不注意だからやめなさい
と親にも言われた
前方もちゃんと見ているのだが
対向車が来るとどうしても確認してしまうのだ
またある人には
「人間観察でもしてんの?」
とも言われた
確かに運転しながら面白いことをしてる人をたまに見かける
朝ならをパンやおにぎりを食べながらなんてもうザラにいるし
男性なら髭剃り、女性はメイクしてる人もいる
少数だが歯磨きしてる人もいる(歯磨きした後の口をゆすぐのはどうしてるのか知りたいw)
あとは個人的に眼鏡をかけてたりすると『おおっ!』となる(これは私個人の好みの問題w)
助手席の女性が運転してる男性の肩に頭をもたれ掛けてる羨ましい光景も見るし
先日は後ろの席の子供が運転してるお父さんにちょっかいをかけて目隠ししてるのを見た(見てるこっちが怖くなった・・・)
確かに対向車の人間観察は面白いからやめられないが
私が本来癖で見ている感情とはちょっと違うような・・・
・・・『誰かを捜している』?
そんな気もする
そう思うのは一度だけ
そんな感覚になるきっかけがあるから
もう随分前の遠出したときのことだ
隣県で開催されたアーティストのライブがあった翌日、帰る前にとある神社に寄るために車を走らせていた
全く右も左も判らない街を走ってたら思いも寄らない場所に出た
多分ここはそう・・・
・・・以前もきたことがある『あの場所』
もう20年以上前に一度だけ来たことがある『あの場所』
『あの場所』は『"アノヒト"が住んでいた場所』
もう『アノヒト』は居ないけど
私と『アノヒト』が逢った事実と記憶が留まっている場所
心臓は反射的に高鳴り始めた
20数年経って景色は変わっているのに
そこに来た途端気づいてしまった
まだ
『・・・ワタシノナカ二アノヒトガイル』
というその事実
残像が私の奥底に張り付いたままだということ
波のように感情が押し寄せて運転出来なくなる
何処かに一旦停まらないとー
そう思ってコンビニに入ろうとした次の瞬間
対向車のなかに見つけてしまった
ーそこにいるはずのない『アノヒト』をー
心臓が止まりそうになり痛い
苦しい
必死で痛みに耐えながら再度確認しようとしたが
もうその車は通り過ぎてしまっていた
ほんの数秒の出来事だが
見間違える訳が無い
あんなに目に焼き付けた『アノヒト』なのに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
多分私はそれからずっと今も
『アノヒト』とすれ違うのを待っているんだと思う
もうあれから一度も逢っていないのに
ココロの何処かで待ちわびているんだ
またいつか出逢えることを
少し落ち着いて考えれば
20数年前のままでそこにいるはずはなく
私の想い込みの成せる技なのだが
多分とても似た人がその周辺に住んでいても
全くおかしなことではないだろう
。。。ただ
本当の『アノヒト』は
今なにをしているかというと・・・