人からの相談をどう聴くのか
産業カウンセラーの資格を取るべく、2020年11月から養成講座に通い、傾聴やカウンセリングについて学びました。
ざっくり言ってしまえば、カウンセラーさんは「人の話を聴く」ことのプロです。助言ばかりをするわけでもないし、ただ話を聞いてうなずいているだけでもありません。そこで重要なキーワードになってくるのが「積極的傾聴」です。
その人の気持ちや背景まで聴く態度「積極的傾聴」
傾聴は英語でいうと「Active Listning」と言います。積極的に聴くってことですね。ただ話を聞くだけでなく、相談の背景や感情、非言語的に読み取れることも含めて、相手の伝えたいことを深く受け止めるということです。
相手の話を聴く態度として、大前提として「人間尊重の態度」が必要です。相手を尊重し成長を信じる、ということが必要なマインドセットになってきます。
人の相談を聴く上でよくある悩みが「共感しすぎてつらくなる」「つい説教っぽくなる」「自分の経験を語りたくなってしまう」などで、相談聴くの向いてないんだよな、と思っている方も少なくないのではないでしょうか。
それらは「積極的傾聴」の態度を知っていると、そんなに気にならなくなるかもしれません。この記事では、積極的傾聴をやわらかく伝えながら、日常でも心がけられそうなことを伝えたいと思います。
自分の価値観を脇に置いて聴く
相手には相手の悩みがあって、それは自分が抱えているものと同じような悩みかもしれないけれど、自分と完全に同じ感じ方をしているわけではありません。「自分の価値観」を自分の中から取り出して、いったん脇に置いておくようなイメージで話を聴きます。
つまり平たく言えば、相手の立場に経って気持ちを理解するということです。相手には相手の価値観があって、その相手の価値観の中で葛藤が生まれていて悩んでいる、ということを心に刻みます。
相手は相手・自分は自分、なので、それは決して交わらないということがわかると思います。相談を聴いて、自分の中にぐいっと相手が混ざるわけではなく「同じように感じると"理解"」するのです。
イメージするならこんなかんじです。自分の中に空っぽのコップがあるとして、その中に相手の聴いた話をつぎ込んでいきます。そのコップは、ただそこにあるだけです。自分の悩みが入ったコップが隣りにあっても、それが交わることは決してないのです。
これが出来ていると「共感しすぎて一緒につらくなる」「自分の経験談を共有すれば相手も解決する」みたいな課題が小さくなると思います。それらは交わらないからです。
善悪や好き嫌いで判断しない
相手を受け入れる態度として重要なのが、条件付きの肯定をしないということです。例えば「あなたと価値観が似ているから受け入れる」「あなたは優秀だから受け入れる」という態度で話を聴いてはいけません。
相手も自分も、同じ尊重すべき人間です。何か自分にとって都合のいい/悪い条件が揃っているからといって、態度を変えることはあってはなりません。
これは、実はかんたんなようで難しいです。無意識のレベルで、結構人って態度を変えています。社会的な立場の違いなどによっても生まれてきてしまうものです。自分はそうじゃないと思っていても、相手を萎縮させてしまっていたり逆に横柄な態度に導いていることも0ではありません。それを頭の片隅に常に置いておきます。
まずは、どんなに自分の価値観にそぐわない相談でも、関心をもって聴く姿勢が大事です。その姿勢でいることで、相手も安心して相談が出来るはずです。(ただし、法に触れることなどは真摯に向き合い、毅然とした態度で臨む)
これが出来ていると「説教したくなる」ような気持ちにはなりません。説教したくなるとき、相手を無意識に判断しています。相手は何もわかってないから受け入れられない、という判断をしていることになるからです。
自分の心のデコボコを理解する
人は誰でも完璧ではありません。人それぞれが(悪い意味ではなく)偏った考え方で世界を見ているし、冷静になれない瞬間があったり、過剰反応してしまう話題があって当たり前です。
しかし、相手の話を真摯に聴くときに、それらが邪魔をしてしまうことがあります。場合によっては相手を傷つけたり、うがった解釈をしてしまうこともあります。
そうならないためには、自分の心のデコボコを知っておくということが大事です。言い方を変えれば、見たくない自分を見ることかもしれないし、心の傷と向き合うことかもしれません。
先程言ったとおり、人間は完璧ではありません。だからといって、鉄壁の心を作ろうというわけではなく、まず受け止めることが大切です。
つまり「なんで自分ってこうなんだろう」という無意識の言動・心の状態に対して、意識的になることでもあります。そうすると、自分の偏りを理解した上で相手の話を素直に聴く体制が整い、自分の心に囚われることなく相手の話をよく聴けるようになります。
「カウンセリングの父」が教えてくれること
カール・ロジャーズの「来談者中心療法」という理論があります。カール・ロジャーズは「カウンセリングの父」と言われていて、様々なカウンセリングの理論がある中でも、中心となるような理論と言われています。
上記で書いたことは「来談者中心療法」の「中核三条件」というものをベースにした話でした。中核三条件では、このようなことが書かれています。
1.共感的理解 (empathy, empathic understanding)
相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとする。
2.無条件の肯定的関心 (unconditional positive regard)
相手の話を善悪の評価、好き嫌いの評価を入れずに聴く。相手の話を否定せず、なぜそのように考えるようになったのか、その背景に肯定的な関心を持って聴く。そのことによって、話し手は安心して話ができる。
3.自己一致 (congruence)
聴き手が相手に対しても、自分に対しても真摯な態度で、話が分かりにくい時は分かりにくいことを伝え、真意を確認する。分からないことをそのままにしておくことは、自己一致に反する。
引用:https://kokoro.mhlw.go.jp/listen/listen001/
この3つの条件は、それぞれ密接に関わっていて、何かが欠けると他の条件もうまく表現出来ません。読んでしまえば当たり前の態度かもしれませんが、人間って常にこうはいられないものです。むずかしい!
ちなみに傾聴には技法があって、感情の言葉や独特の言い回しに注目して伝え返すなど要点がいくつかあります。ただ「うんうん」としているだけではなく、相手の鏡になるイメージで、相手の発した言葉のうち要所を相手に返して頭の中に入れ直していきます。カウンセラーさんは、これが非常にうまいので、心の整理が出来るのです。
1on1から友達からの相談まで応用出来ると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
最後に
傾聴を学ぶと、いかに人の話をちゃんと聴いてないかがわかります。
養成講座で講師の先生から「ちゃんと傾聴していると、人の相談にとやかく判断している暇はない。聴くのに必死になるから。」と言われて、確かにそのとおりだなという体験をしました。
通常、誰かの相談に乗っていると「えー、そんなことしないでこうしたらいいじゃん!」と思ったり伝えがちです。でも、傾聴の態度で話を聴こうとすると「なぜそういうことに至ったのか」「どういう心理状態なんだろうか」と考えたり、背景を理解するのに頭の中は爆発寸前です。
誰一人として同じ人はいないし、ぴったり同じ感覚の人はいません。だからこそ「わかってくれた」ことに対して喜びが生まれたりします。傾聴とは人に寄り添うことだなと強く思いました。
ただ……本当に難しい。半年やそこら訓練したからといってマスター出来るものではありません。これからもスキルを磨いていきたいと思います。