しあわせのかたち
あの頃は、毎日君の事で心を染めていた。
その感情に浸っていれば幸せで、世界はその感情だけで永遠に壊れる事なく進んでいけると思っていた。
必要なものは、君と君を思う僕の感情だけで、他には何もいらなかった。
小さな町の小さな家で君と僕がつつましく暮らしている。
僕の心の中はそんな想像で満たされていた。
ふたり一緒なら幸せに暮らせると信じて。
でも、いつからか雑音がひどく目立つようになって、君の心が僕には見えなくなってしまった。
雑音の中で必死に君を呼んだけど、君には全く届かなくて、君は僕から遠くなるばかりだった。
僕の心はいつしか苦しくて、苦しくて、毎晩のように泣いていた。
それから少しして、君が姿を消して僕の心には黒く大きな穴があいた。
初めは失望感でしかなかったけど、勇気を出してその穴の先へ意識を向ける事にした。
少しずつ感情を整理して、先に続いている感情や可能性に目を向けた。するとそこには無数の希望とキラキラした感情が詰まっていた。
僕は新しい旅へ行く決心と準備を始めた。
とてもゆっくりだったけど、君と君との過去にさよならしたんだ。
何度も引き返そうになったけど、立ち止まる事を選びたくなかった。
今の僕には君と一緒に居た時と同じ感情も幸せもないけれど、悲しいとは思っていない。
世界も自分も変化し続ける事で、新たな幸せを受け取れることを知ったし、変化を受け入れる事の大切さも学んだんだ。
幸せはいつも形を変えてやってきて、きっと同じ物はひとつとしてない。
でも、それは悲しいことじゃなくて、むしろ楽しいことなんだと思う。
今でも時々、君の事を思い出す事がある。
そんな時は心が温かくなるんだ。
いつまでも君は僕の大切な人で、僕を成長させてくれた人。
だから、今は感謝しかないよ。