侍タイムスリッパー を観た

古今東西撮影所を舞台にした映画やドラマは数あれど、今作はタイムスリップという特殊な条件を設定し主人公が生きていた幕末という時代と現代を重ね合わせることで、ちょいとひねったでも奥行きのある物語とがっつり迫力のチャンバラを魅せてくれる評判に違わぬ作品だった。とにかく出てくるキャラが皆血が通っていて本当にいい。全員が普通の人なのもいい。

木訥で会津訛の抜けない不器用なほど真っ直ぐな会津藩士の主人公の芯の通った生き方を中心に、撮影所周りの人々との交流が描かれていく。演じている方々は皆上手い。自然でありキャラクターの人生をきちんと背負って1人の人物を描いている役者ばかり。そして皆愛らしい。単純に人情やらいい人だけでくくれない実にこのあたりのものである人物ばかり。その中で佐幕派会津藩士として上司に勤王の志士の暗殺を命じられた手練の武士だった主人公は戸惑いと喪失感を越えて、成り行きで斬られ役として現代を生きていくことになる。

斬られ役として当然殺陣が重要な要素として出てくるのだが、昨今キングダムなどでワイヤーなども使うアクションに押され気味にも思えた元祖チャンバラが息を吹き返した感じなのが個人的に嬉しい。これに関して冒頭の幕末での勤王の志士との斬り合いにおいてずいぶん鉄の塊としての日本刀の音にこだわっているなと思っていた。鞘に入れる音、鍔迫り合いの音に殺気がある。時代劇を描いたマンガでギャリン❗という書き文字よく見られるがまさにそれ。

それがなぜなのかは撮影用の竹光が出てきたところで気がついた。本物の侍の主人公と役者のあり方の違いというか。覚悟の違いのようなものが強調されていた。竹光の当たる音の軽さと主人公が気にした持った感じの軽さ。そこで刀の重さを表現しようと工夫することで他の役者と違う斬られ役として目に止まっていく。

斬られ役として見えてくるのが時代の流れで廃れかけている時代劇の姿。そこに遥か過去に失われた主人公がリアルで生活を送っていた懐かしい時代。それは命がけで守ろうとしていた徳川幕府であり会津の人々でもある。鶴ヶ城攻防戦の悲惨を知るにいたりもう手の届かないどうしようもできないもどかしさと後悔に落ち込む主人公。タイムスリップによって現代に放り出された主人公はこの二重構造の中で迷い悩み小さな喜びを感じ温もりのある人間関係に救われ。やがて大きな区切りの時が訪れることになる。

過去との邂逅、葛藤、落とし前としての決断。そしていま自分が存在する現代という世界に一歩ずつ踏み出していく。ここで過去も現代も静かに受け入れ自分なりの歩みを始める主人公が実に好ましい。先にも書いたがこの自然さがいい。主人公だけではなく他の登場人物も全員が肩肘を貼ることなくそれぞれの日常を精一杯に生きている。役に血が通うとはこのこと。みんな人生を背負い喜怒哀楽を抱えて等身大で生きている。

主人公が走馬灯として垣間見る過去の光景とそこに存在する周囲の人々と主人公の有り様があまりに懐かしく切なく。一方で現代から見れば大したことのないもので今の日本の豊かさを感じ、皆が幸せになっているのだと感激し落涙する。あるいは江戸時代の武士はむしろ公務員であり人を斬るなどという事がまずない。うっかりそういうことをやったらそりゃトラウマにもなるだろうなという気づき。物語の背景に厚みとぬくもりを与えるそういうシーンが実にいい。

で、そこで最後にぶちこまれるオチがなかなか。初めての殺陣の稽古での逆転オイオイなどいろいろ笑えるところもあって。そういうシーンと比べて特にラスト近く繰り広げられる斬り合いの迫力。冒頭で描かれた鍔迫り合いの音の鬼気迫る感じよ。久々に見る本格的なチャンバラシーンの素晴らしさ。この映画自体が良質な時代劇だったと言えるだろう。

ということで結論として言うと。

とにかく久々の迫力ある本格チャンバラをありがとう。いろいろな役者の役のしっかりとした造形で血の通った生きた人間の人生が見えてくる作品。本当にいい時代劇だったなあ。

ということになる。

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