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「ビリギャル」本人と「走る哲学者」に「失敗を恐れなくなる方法」について聞いてみた

2025年1月30日木曜日、まさにこの文章を掲載しているプラットフォーム「note」と、各種文化事業の運営事務所「アカデミーヒルズ」とのコラボ講演会を聴講しました。

 講演会のテーマは「小林さやかと為末大が語る『人間の学び・成長のプロセスとマインドセット』」。
 本記事では、講演会で得た学び、考察をシェアします。


概要


 スピーカーである小林さんは「ビリギャル」本人、為末さんは元陸上選手。お二人が、自信を持って失敗を恐れず成長してゆくためのマインドセットや環境についてお話しされました。

 講演の中では「殻を破る」という表現がよく登場しました。
 「殻を破る」つまり、「できない」「自分には手に負えない」「どうせ夢物語」…そのような思い込みから解放されて、自分の決定や行動に自信が持てる状態になること。

 日本の社会で生きる人々に特に欠如しがちな、この自信をどう身につけるか。「自信の作り方」について、講演では主に2つの要素が自信の材料として取り上げられました。
 1つは失敗に寛容な環境、もう1つは成功体験です。

自信の材料 ①環境

スピーカーのお話

 小林さんは、自信を作る環境とは「結果よりも成長を重んじる価値観があり、失敗に寛容な社会」であるとお話しされていました。
 
 自信には自己肯定感と自己効力感の2種類があり、大人になっても育てられる自信は後者の自己効力感だそうです。
 なぜなら、前者は自分への主観的な価値付けで、幼少期の経験に影響される部分が大きく大人になってから身につけるのは難しい場合があるのに対し、後者は何かのタスクや分野において、自分が能力を発揮できると思う気持ちであり、成功体験を得ることで強化されるからです。
 
 自信=自己効力感の根拠となる成功体験を得るためには、挑戦と失敗が必要です。しかし、失敗を許さない発想が強い社会は成功体験を生む挑戦を支えません。
 反対に、一見報われない結果を経験したとしても、長期的な視点での人間の成長や可能性の拡大度合いに価値があるとし、失敗に寛容な環境は挑戦を支えます。

①環境・考察

 このような小林さんのお話を聴くと、自信を作る環境とは、「成功=結果」ではなく「成功=成長」という認識が根付いた社会だと思いました。
 
 自分に自信がつく世界では、「成功=成長」という前提があるとしたら、従来の一般的な「成功=結果」という前提の世界とは成功の定義が違うことになります。
 言葉の定義が違うということは、生きる世界線までも違ってくるのです。
 私の心には「安心したい」という本音があるので、自分の安心感のために自信を育てたいですから、そのためには「成功=成長」の世界で生きれば良い、ということがわかりました。
 
 2020年からの疫病騒ぎに続き、戦争や食糧価格の高騰、今までは権威があった人物やメディアの立場が揺らぐ出来事が起こるなど、現在は切実に安心感を求める気持ちが多くの人の間で強まっていると思うし、社会の価値観が一新されるタイミングでもあると思います。
 そのため、今後は成功の定義が成長であるという認識が醸成されていくように感じます。

自信の材料 ②成功体験

スピーカーのお話

 自信のもう1つの材料である成功体験については、自分には能力がある・できるというマインドセットに変わる要因の一つである成功体験を、大人がどう得るかという側面が着目されました。

 小林さんは、大学受験という目標を見つけ、その目標に対して前向きになれたというマインドセットの変化のきっかけは、受験勉強を指導した先生が小林さんの話をよく聞いてくれたことだ、とお話しされていました。

 為末さんも、クロアチアで友人の家庭に食事に招かれ、食後お酒を楽しみながら人々が順番に自分の話をし、お互いにじっくり聞き合うという経験が、非常に感銘を受けた一つの体験として印象に残っているとお話しされました。

 このようなお二人の経験から、「話をよく聞いてもらう」体験こそが成功体験になり、子供たちに影響を与える大人にこそ必要な体験であるということが、講演の中で語られました。
 
 為末さんからは、「話を聞いてもらう」という体験は受容の体験であり、受容には自信を与える教育のあり方の根幹ではないか、とのコメントもありました。
 また小林さんは、自分のことを語り、それが受容されるという体験が成功体験の一つとして重要であるという認識を踏まえて、その体験を英語学習を通じて大人に得てもらうための場として、「AGAL株式会社」を立ち上げたそうです。

②成功体験・考察

 お二人のお話から、一人一人が主役となり、フラットな仲間感のある場で自分の話を聞いてもらうという受容の経験が自信につながるということがわかりました。
 
 小林さんはの場合は、受験勉強の先生という他者がご自身の話を聞いてくれた体験がマインドセットの変化につながりました。
 一方で、「話を聞く」ということは自分で自分にやってあげることも可能だと私は思っています。
 
 私自身は、内観や本音を自覚し認める作業、自己受容の作業を3年以上行っています。
 講演を聴くなかで、それらの自分のしてきたことは「自分の話を自分で聞く」ことであり、自信を育て、自分のチャレンジを支えることをやっていたのか、と改めて発見しました。
 
 毎日の経験や日々の感情、過去の記憶を材料に、言語能力を使ってそれらを言葉で表現し、認識しなおす作業は多くの場合、単独でやってきたことです。
 結果として、確かに数年前に比べ、考え方や行動が前向きなっているし、体調も良くなっています。
 それはきっと、一人でいることが好きな私が自分なりに自分の話を聞き、自信を育てたからなのだということがわかりました。
 
 話し相手が自分でも他者であっても受容の経験ができるなら、自信は案外どんな状況でも簡単に育てられるのかもしれません。

質疑応答「失敗を恐れなくなる方法」

質問内容

 質疑応答の時間があったので、「ビリギャル本人」と「走る哲学者」に「失敗を恐れなくなる方法」について質問をうかがいました。
 以下が質問文です。


 私は失敗を恐れるのは、時間感覚に原因があると考えています。
 
 エジソンは「上手くいかない方法を1万通り見つけただけ」とポジティブに考えたそうですが、多くの人には「9,999回目で死んだら成功できない」という不安があります。
 中学受験に失敗した女の子を責めた母親のお話が講演の中で出てきましたが、母親としては「親の自分が死ぬ前に、子供が保証ある立場にたどり着けなかったらどうしよう」という気持ちもあったかと思います。
 
 このような、簡単にいうと「成功できないまま死んだらどうしよう」という不安がつきまとう時間感覚から自由になるためにはどうしたらいいでしょうか。


質問への回答

 質問に対し、為末さんは
「安定や保証という結果だけが成功だと思って、その成功に導くために手を差し伸べることが、相手にとっての幸福になるとは限らない。
 自分で自分の人生を生きた、今この瞬間私を生きているという実感が人間にとっての幸福感だと思います。」
というコメントをくださいました。

 小林さんは、
「幸福感には2種類あって、安定や保証された状況が続くヘドニック・ウェルビーイングと、成功体験やチャレンジを積むなかで様々な経験や感情を得るユーダイモニック・ウェルビーイングがあります。
 前者はすぐに飽きてしまう。人間にとっての本当の幸福は後者です。」
というコメントをくださいました。

回答に対する解釈

 お二人からの回答を得て、チャレンジそのものや自分の人生を生きている感覚を味わうことこそが幸福であるという視点・世界観に立つことが、解決になると考えました。
 「幸福」を、ある一時点を切り取った結果からではなくプロセス全体を通して認識するものとして捉えなおすということです。
 
 自分の意思で、行動で、自分の人生を生きる過程や、チャレンジをして受容を含めた成功体験を得ることは成長そのものです。
 この成長のプロセスを経験していることを認識し、一瞬一瞬味わうことが「幸福感」だとすると、「成長=幸福」ということになります。
 
 そして、前述の「①環境・考察」についての部分で書いたように、人に幸福感をもたらす自信は「成功=結果」ではなく「成功=成長」と捉えることで作られます。
 
 このように整理すると、「成功=成長=幸福」という認識の型ができあがります。
 幸福感をもたらす成功も、幸福感そのものも、自信を持って自分の人生において試行錯誤をしているプロセスに注目することで存在感が増すということがわかります。
 
 タイムリミットを恐れる感覚は、プロセスに取り組んでいる自分を無視しているから出てくるものなのでしょう。
 一時点でのあり方に固執していると、日々の自分の感情や生活や行動は無意識のうちに無かったことになります。
 成功や幸福感はプロセスの中にあるのに、世間や他人に評価されるものではないからと、自分の本当の声そのものであるプロセスを受容しないから不安が強化されるのだと考えました。

まとめ


 今回の講演は、私にとって自己受容の大切さを再認識させ、また成長に価値を置く世界を生きるきっかけになりました。
 今回この文章を書き、公開することについても、「一時点の結果にこだわらず自分の行動や経験のプロセスを認めてあげよう」と思ったからできたことです。
 他者についても同じような視点を持って、落ち着いて相手の話を最後まで聞くことにします。

 アカデミーヒルズが運営するライブラリーは閉館していますが、やはりリアルでのイベントは何よりも良いものです。
 今後もリアル開催の機会が増えれば嬉しいと思います。
 

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